アレクサンダーテクニーク 思考と心 練習 身体の仕組み

正しい姿勢とは

「姿勢を正しく!」、楽器演奏を始めた初期の頃に言われた方は多いでしょう。

一言で正しい姿勢といっても楽器演奏のために適した姿勢とそうでないものがあります。

今回は楽器演奏のときに適した姿勢とはどういうものなのかをみていきましょう。

「気をつけ」「背筋を伸ばす」は良い姿勢ではない

まずは下記写真で、この姿勢についてどう思うでしょうか。

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一見したところ朝礼の時の「気を付け!」に似て良い姿勢な気もします。

しかしこれ、ずっとキープしようと思って長く続けていれば腰痛を引き起こしてしまうこともあり、またブレスも不自由になる姿勢です。

なぜでしょうか。

楽器を吹くときの姿勢、骨格も筋力も人それぞれなのでこれが正解!というものはもちろんありません。

ただし、腰痛になってしまいやすかったり呼吸が不自由になりがちな姿勢というのは存在します。

一見姿勢よくきれいに見えたとしても、必ずしも演奏に役立つとは限らないのです。

比較して見てみましょう。

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先ほどの反り腰の写真は一番右です。

真ん中のニュートラルな状態に比べるとずいぶん背中の筋肉が不必要に縮んでいます。

これでは身体が反っていてブレスの時に柔らかく膨らむことが必要な胴体の動きを制限してしまいます。

それに常に筋肉が働いている状態が長い間続けば痛くなるなどトラブルが起きても当然。

では反対に猫背な姿勢はどうなのでしょうか。

 

猫背はダメってどうして?

「気をつけ」のような姿勢では腰痛になったりブレスの邪魔をしてしまうことがある、ということでした。

では、一番左の猫背に見える姿勢はどうなのでしょうか。

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これは単純に猫背だからダメ、とうことはありません。

なぜかというと、見栄えが悪くてもその人の身体の構造に適していれば奏法の有利さという点ではそれが一番だからです。

世の中には猫背に見える姿勢が最も体への負担が少なく動かしやすくて快適だという人もいるのです。

それを踏まえた上で、構造に適さないほどに丸まってしまうのは肋骨や肺を圧迫してしまうことが多いのであまりオススメではありません。

とはいえ、背骨が丸まっているのか背中にお肉がたくさんついているため骨格的にはそうでもないのに丸く見えるのかを判断したり、着ている服によって印象を左右されたりせずに見極めることは人体の動きを観察するトレーニングを積んだアレクサンダーテクニーク教師ならできますが、専門家でないと見極めが難しいところです。

だから誰にでも同じように「背筋がまっすぐに見える姿勢をしなさい!」という指導は危険なのです。

 

姿勢コントロールで音も変わる

では姿勢の要になる胴体はどうなっているのが一番演奏に有利なのでしょうか。

結論から言いますと、どんな動きでもできる柔軟性のある状態が演奏には一番有利です。

そこからすぐに色んな動きに移れる姿勢というのが言ってしまうと理想でしょうか。

骨格や筋肉量や筋力の強さ、経験や知識などはそれぞれ違うもの。

とはいえ物理的に動ける場所でないところを動かそうとしたり、構造的にやりにくいことをやろうとしたりすれば怪我や故障に繋がってしまうので、自分の身体についての知識は大切です。

また姿勢のコントロールとして、できることとできないことを把握しておくのは、怪我や故障を防ぐだけでなく音質コントロールの可能性を広げたり音量アップの役にも立つものですよ。

音符ラッパ

背骨の動き方の特徴

では、胴体を支える背骨の特徴を大まかに解説してみましょう。

背骨は首のあたり、肋骨のついてる胸あたり、それ以下の背中から腰までの三つの部分に分けられます。

全部つながってて一本の背骨なのですが、部分によって動き方に違いがあります。

1、首のあたりは前後、左右の傾き、回転などができます。

2、胸のあたりは多少丸くはなれますが大きな動きはできません。

3、腰のあたりは反るのは得意です。

これが大まかな特徴。

この他に構造的にできないことや得意なこともいくつかあり、無理なことをすれば腰痛になったりなどトラブルに繋がる動きもあります。

 

音が良くなる構え方(サックス・フルート)

例えばかなり多くの方ができると勘違いしてる代表的な動きが「腰を回す」というもの。

これ、実は人体には不可能な動きです。

なぜかというと、こんな風に腰椎(腰の辺りの背骨)は下側の骨が上側の骨のストッパーになって回らないようにできているから。

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サックスやフルートを構える時によく使いがちなひねりの動き、これを腰でやろうと思ってると構造的に無理がかかるので腰痛になってしまいやすいもの。

では上体をひねりたい時に実際に動けるのはどこなのでしょうか。

正解は背中です。

ここの関節が回れます。

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それ以外の背中の関節はほとんど回転の動きはできません。

むしろひねる動きが一番得意なのは首です。

だからサックスやフルートを構える時には体全体を右に向けて座り首だけ指揮者の方を向く、というのが一番効率的で音の響きも豊かになることが多いのです。

 

構えの基本的な考え方(その他の楽器)

その他サックスやフルート以外の楽器の構えについても体の構造に沿った使い方をして、細かでたくさんのエネルギーを必要とする演奏動作に集中できる状態を作れる構えが「良い構え」ということになります。

写真に撮られた時に見栄えがすることが優先される場面もありますが、演奏中は見栄えだけに集中するわけにはいきません。

息の流れを邪魔しないか、身体のどこかに負荷がかかりすぎていないか、ということは基本的な人体の構造を知った上で個人個人の筋力や骨格や経験、心身のコントロールスキルなど特徴も考え合わせて決めるもの。

背筋が伸びていたり髪の毛が乱れたりしない見た目の美しさと音のコントロール精度を同時に必要とするテレビドラマの撮影現場などでは、「当て振り」と言われる口パク手パクで役者さんが演奏のふりをした映像とプロ奏者が本気で演奏したときの映像や音を合成するような加工処理を行うもの。

大切な演奏の本番でその2つの役割を一人の奏者が担うというのは現実的ではないのです。

現実的にできないことをやろうとすると怪我や故障につながるので、指導の時にはぜひ頭に入れておきたい知識の一つですね。

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  • この記事を書いた人

有吉 尚子

1982年栃木県日光市(旧今市市)生まれ。小学校吹奏楽部にてクラリネットに出会い、高校卒業後19才までアマチュアとして活動する。20才のときに在学していた東京家政大学を中退し音大受験を決意。2003年洗足学園音楽大学入学。在学中から演奏活動を開始。 オーケストラや吹奏楽のほか、CDレコーディング、イベント演奏、テレビドラマBGM、ゲームのサウンドトラック収録など活動の幅を広げ2009年に洗足学園音楽大学大学院を修了。受講料全額助成を受けロシア国立モスクワ音楽院マスタークラスを修了。  及川音楽事務所第21回新人オーディション合格の他、コンクール・オーディション等受賞歴多数。 NHK「歌謡コンサート」、TBSテレビドラマ「オレンジデイズ」、ゲーム「La Corda d'Oro(金色のコルダ)」ほか出演・収録多数。 これまでに出演は1000件以上、レパートリーは500曲以上にのぼる。 レッスンや講座は【熱意あるアマチュア奏者に専門知識を学ぶ場を提供したい!】というコンセプトで行っており、「楽典は読んだことがない」「ソルフェージュって言葉を初めて聞いた」というアマチュア奏者でもゼロから楽しく学べ、確かな耳と演奏力を身につけられると好評を博している。 これまでに延べ1000名以上が受講。発行する楽器練習法メルマガ読者は累計5000名以上。 現在オーケストラやアンサンブルまたソロで演奏活動のほか、レッスンや執筆、コンクール審査などの活動も行っている。 「ザ・クラリネット」(アルソ出版)、吹奏楽・管打楽器に関するニュース・情報サイト「Wind Band  Press」などに記事を寄稿。 著書『音大に行かなかった大人管楽器奏者のための楽器練習大全』(あーと出版)を2023年8月に発売。Amazon「クラシック音楽理論」カテゴリーにて三週間連続ベストセラー第一位を獲得。 BODYCHANCE認定アレクサンダーテクニーク教師。 日本ソルフェージュ研究協議会会員。音楽教室N music salon 主宰。管楽器プレーヤーのためのソルフェージュ教育専門家。クラリネット奏者。

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