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ピアニストの脳を科学する超絶技巧のメカニズム

演奏家の心と身体についてのとても興味深い本を読みました。

演奏するという動作を脳科学、筋肉、ホルモン、物理、音響など様々な角度から考えられています。

この本ではピアノがメインに取り上げられていますが、他のどんな楽器でも考えるきっかけとして参考になるでしょう。

いくつか気になった話題をかいつまんでご紹介します。

イメージトレーニングの効果

まずはイメージトレーニングについて。

身体を実際に動かさずイメージだけで練習した場合にどの程度効果があるのか、という研究です。

結論としては、身体を動かした場合と同じくらいの効果があるそう。

忙しい社会人には嬉しい結果ですね。

楽器奏者の脳は、演奏動作について思い浮かべるだけで現実的な動きとしても反応するそうです。

木管楽器奏者はよく移動中の電車の手すりに捕まりながら指を動かしてしまっているのを見かけますが、そういう動きもきちんと脳はトレーニングとして捉えているんだとか。

ということは、夜布団に入ってから寝付くまでイメージトレーニングを行うだけでも練習になるということでしょう。

興味深いですね。

 

 

脳はミスを予知している

次に気になったのは演奏者の脳はミスを予知しているということ。

実際のミスタッチとして違う音が出る前に、脳は間違えたことを認識して打鍵力を弱くするそう。

これはクラリネットでもリードミスが出る寸前に気づいて息を弱めることがあるので納得できます。

今出している後ではなく常に先を見ているからこそ、ミスに繋がる動きの修正も可能になるのでしょう。

初見が得意な奏者ほど楽譜の先を見ていて、初見が苦手な奏者ほど近くを見ているという研究についても述べられていましたが、先を見るという意味では通ずる話題かもしれませんね。

 

初見演奏のための楽譜の見方

初見演奏についてはさらに、先を見ることは当然ながら一目で認識できる音符の数が多いほど有利であるとも書かれていました。

というのは音符をひとつひとつ追いかけるのではなく、スケールや和声やアルペジオ、その他何かしらのパターンとして認識できた方が良いということ、

音符のグループを認識するためのパターンをたくさん知っている方が良いというのは、つまりアナリーゼ力がある人の方が初見演奏により強いということ。

歌い回しだけでなく、機械的に演奏しようと思った場合にもアナリーゼのスキルは必要になるということですね。

 

耳の仕組み

次に興味を引かれたのは耳の仕組みについて。

耳の奥の蝸牛という組織で音をキャッチしていますが、高音と低音では反応する部位が違うそう。

具体的には高音はより外に近い手前側で、低音はより奥側で認識されているそう。

わたしのソルフェージュのレッスンでは高音は簡単に聴けるけれど低音は聴きにくいのでより注意を向けるようにお伝えしています。

耳の中の手前側で先に高音を認識しているという事実からしても、やはり低音により意識を向けて聴くというトレーニングは必要だなと改めて感じました。

読んでみたい方はこちらからどうぞ

ピアニストの脳を科学する
超絶技巧のメカニズム
古屋晋一 著
春秋社

大人になってからの練習の効果

次に取り上げたいのは、聴く力やテクニックは遺伝と訓練どちらによるのか、そして大人になってからの練習の効果についての部分。

演奏に関連する脳細胞は使えば使うほど増えるそうです。

関連する脳細胞が多いということは、より微細な音の違いが認識できたり、速弾きでよりスピードを出せたりなど、精度の高い演奏をすることができるということ。

もちろん子供の頃から演奏を始めていればトータルで増える脳細胞の数も多いけれど、取り組みさえすれば大人になってからも練習の積み重ねてちゃんと脳細胞は増えて、上達に繋がるとのこと。

希望が持てますね。

また、身体の動きや機能について正しく知ることの重要性も述べられています。

ありがちなトラブルとして腱鞘炎、手根幹症候群、ジストニアについても言及されていて、時間と労力をたくさんかけて練習したことによるトラブルだからこそ、治療にも膨大な時間と努力が必要になると述べられていました。

本当に発症してしまうと人生が変わってしまうので、可能な限りトラブルを引き起こさない使い方をしていくことが望まれます。

だからこそトラブルに至らないよう、出来るだけ若いうちに脳や身体の仕組みについての基礎知識を学んでから練習に取り組むべきというところには深く共感しました。

 

音楽中毒になる脳科学的理由

それから音楽性についての研究も大変興味深かったのでご紹介しましょう。

一般的に音楽性がある演奏というのはダイナミクスの変化よりもテンポを揺らすことによって感じられるという検証結果を書かれていました。

揺らすためにはまず基準のビート感がしっかりないといけないので、やはりソルフェージュが出来ていないと揺らしようがありませんね。

 

感動するときに出るホルモン

そして私が特に興味深いと感じたのは、音楽に感動するときに出るホルモンのこと。

音楽に感動するときには脳の報酬系といわれる部位が反応しているそう。

それは食事や非合法ドラッグや性的刺激などで反応する部位と同じで、快楽ホルモンとも言われるドーパミンがたくさん出ているのだとか。

だからみんな音楽をやめられないんだな!と納得しました。笑

ところでその報酬系は感動しているその時だけでなく、感動に至る直前にも反応するそう。

音楽による感動を満喫するためには「来るぞ、来るぞ、来たー!」という期待感が大切で、その期待感を作るのがテンポの揺らぎによる「タメ」なのだとか。

それでテンポの揺らぎが要素として大きく捉えられているのですね。

 

聴き方による感動度合いの変化

また関連して聴き方による感動度合いの変化について。

BGMとして流し聴きをするよりも音がに集中して聴いている時の方が、心拍数も上がり感動度合いも高くなると。

より深く聴けるようになるために、事前に作品について勉強したりアナリーゼやソルフェージュを学ぶのは役立つということでしょう。

 

最後に

たくさんの話題が挙げられていましたが、私が特に面白いと思ったところだけをかいつまんでいるので、きっと読む人によってハッとする部分は違うでしょう。

他にもたくさんの興味深い硏究をわかりやすい文章でまとめられていて、こんなに読みやすくこんなに知的好奇心を満たしてくれる本があるとは!と驚きました。

私が気になったところは私の目というフィルターを通しているので、ぜひご自身の目で読んでみることをおすすめします。

きっとここにご紹介した以外にも驚きの発見や気付きがあると思いますよ^_^

ピアニストの脳を科学する
超絶技巧のメカニズム
古屋晋一 著
春秋社

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  • この記事を書いた人

有吉 尚子

1982年栃木県日光市(旧今市市)生まれ。小学校吹奏楽部にてクラリネットに出会い、高校卒業後19才までアマチュアとして活動する。20才のときに在学していた東京家政大学を中退し音大受験を決意。2003年洗足学園音楽大学入学。在学中から演奏活動を開始。 オーケストラや吹奏楽のほか、CDレコーディング、イベント演奏、テレビドラマBGM、ゲームのサウンドトラック収録など活動の幅を広げ2009年に洗足学園音楽大学大学院を修了。受講料全額助成を受けロシア国立モスクワ音楽院マスタークラスを修了。  及川音楽事務所第21回新人オーディション合格の他、コンクール・オーディション等受賞歴多数。 NHK「歌謡コンサート」、TBSテレビドラマ「オレンジデイズ」、ゲーム「La Corda d'Oro(金色のコルダ)」ほか出演・収録多数。 これまでに出演は1000件以上、レパートリーは500曲以上にのぼる。 レッスンや講座は【熱意あるアマチュア奏者に専門知識を学ぶ場を提供したい!】というコンセプトで行っており、「楽典は読んだことがない」「ソルフェージュって言葉を初めて聞いた」というアマチュア奏者でもゼロから楽しく学べ、確かな耳と演奏力を身につけられると好評を博している。 これまでに延べ1000名以上が受講。発行する楽器練習法メルマガ読者は累計5000名以上。 現在オーケストラやアンサンブルまたソロで演奏活動のほか、レッスンや執筆、コンクール審査などの活動も行っている。 「ザ・クラリネット」(アルソ出版)、吹奏楽・管打楽器に関するニュース・情報サイト「Wind Band  Press」などに記事を寄稿。 著書『音大に行かなかった大人管楽器奏者のための楽器練習大全』(あーと出版)を2023年8月に発売。Amazon「クラシック音楽理論」カテゴリーにて三週間連続ベストセラー第一位を獲得。 BODYCHANCE認定アレクサンダーテクニーク教師。 日本ソルフェージュ研究協議会会員。音楽教室N music salon 主宰。管楽器プレーヤーのためのソルフェージュ教育専門家。クラリネット奏者。

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