コミュニケーション ソルフェージュ 思考と心 本番

下手な演奏だな、と思った時

 

コンサートを聴きに出かけたとき、どんなところに注目して聴いていますか?

もしかしたら好きな演奏家のコンサートなどだけでなく、趣味仲間の発表会など技術的に未完成な演奏を聴く機会も少なくないかもしれません。

そんなとき、音程やリズムの歪みなどに意識を持っていかれて音楽そのものを聴けなくなってしまうのは残念なことです。

わたしたちがコンサートにいくときには、音程が合ってるかリズムが正確か、そんなことを時間と手間とお金をかけて知りたいわけではありません。

ワクワクしたりなるほどと思ったり何か刺激が欲しくて行くのではないでしょうか。

演奏を聴いて奏者がその作品のどこがどんな風に魅力だと感じているのかが伝わってくるのは、技術的に完成しているからではありません。

逆に技術的な問題が特になにも見当たらなくても、作品の魅力や奏者の意図が伝わらないと「面白くない演奏だな」と感じることもありますよね。

実際わたしは以前教えていた音楽教室の発表会で大人の生徒さんが弾いたピアノで忘れられない演奏があります。

大人になってからピアノを始めてまだ2-3年だそうで、ミスタッチやリズムのちょっとあやしくなる瞬間もたくさんあるのですが、つっかえそうになっても萎縮してこじんまりした表現にならず、ものすごく楽しそうに情熱的に最後まで堂々と弾ききっていらっしゃったのです。

「この曲のここが好き!」というのがというのがはっきり聴こえる素晴らしい演奏で本当に感動しました。

後でその方に素晴らしかったとお伝えしたところ、自分の演奏を誰がどう思ったかなんてことは全く意に介さない様子で「この曲のどんなところが好きでこれが弾きたくてピアノを始めて」と夢中でお話されていました。

なるほど、と思ったものです。

格好良いところを見せるとか正確に間違えず弾くとか、そんなことより優先したいことがはっきりわかっているからこそ、お仕事をしながらピアノを始めてまだ数年なのに基礎的なことも驚きの早さで身についていくのでしょう。

聴く側としては、音程やリズムなどの大雑把な情報しか受け取れない耳では、この方の素晴らしい演奏は「へたくそ」に聴こえてしまうでしょう。

わたしたちは音程やリズムや音色やそういう一見わかりやすいけれど本質ではないことにとらわれて、音楽そのものから離れてしまうために勉強したりレッスンを受けたりするのではありません。

見た楽譜から、また聴いた演奏から受け取れる情報を増やして、より深くより楽しく音楽に向き合うことが出来るようになるためにレッスンを受けたり情報を得たりしたいのではないでしょうか。

もちろん表面的なトラブルがあればそちらに気を取られてしまい音楽や表現したいことまで目を向けてもらえないことも少なくありませんから、初歩的なトラブルや歪みは無いに越したことはありません。

とはいえ自分が演奏するときも誰かの演奏を聴くときも、批判や審査をするためでなく、何のために音楽に触れるのかを忘れないでおきたいものですね。

完全無料

*ezweb・vodafone・softbank.ne.jp・hotmailからのご登録の場合、文字化けやメールの配信エラーが大変多くなっております。恐れ入りますが、それ以外のアドレスからご登録をお願いいたします。

  • この記事を書いた人

有吉 尚子

1982年栃木県日光市(旧今市市)生まれ。小学校吹奏楽部にてクラリネットに出会い、高校卒業後19才までアマチュアとして活動する。20才のときに在学していた東京家政大学を中退し音大受験を決意。2003年洗足学園音楽大学入学。在学中から演奏活動を開始。 オーケストラや吹奏楽のほか、CDレコーディング、イベント演奏、テレビドラマBGM、ゲームのサウンドトラック収録など活動の幅を広げ2009年に洗足学園音楽大学大学院を修了。受講料全額助成を受けロシア国立モスクワ音楽院マスタークラスを修了。  及川音楽事務所第21回新人オーディション合格の他、コンクール・オーディション等受賞歴多数。 NHK「歌謡コンサート」、TBSテレビドラマ「オレンジデイズ」、ゲーム「La Corda d'Oro(金色のコルダ)」ほか出演・収録多数。 これまでに出演は1000件以上、レパートリーは500曲以上にのぼる。 レッスンや講座は【熱意あるアマチュア奏者に専門知識を学ぶ場を提供したい!】というコンセプトで行っており、「楽典は読んだことがない」「ソルフェージュって言葉を初めて聞いた」というアマチュア奏者でもゼロから楽しく学べ、確かな耳と演奏力を身につけられると好評を博している。 これまでに延べ1000名以上が受講。発行する楽器練習法メルマガ読者は累計5000名以上。 現在オーケストラやアンサンブルまたソロで演奏活動のほか、レッスンや執筆、コンクール審査などの活動も行っている。 「ザ・クラリネット」(アルソ出版)、吹奏楽・管打楽器に関するニュース・情報サイト「Wind Band  Press」などに記事を寄稿。 著書『音大に行かなかった大人管楽器奏者のための楽器練習大全』(あーと出版)を2023年8月に発売。Amazon「クラシック音楽理論」カテゴリーにて三週間連続ベストセラー第一位を獲得。 BODYCHANCE認定アレクサンダーテクニーク教師。 日本ソルフェージュ研究協議会会員。音楽教室N music salon 主宰。管楽器プレーヤーのためのソルフェージュ教育専門家。クラリネット奏者。

-コミュニケーション, ソルフェージュ, 思考と心, 本番

Copyright © 2022 聴く耳育成協会 All Rights Reserved.