「楽器が上手くなりたい」「合奏をもっと充実させたい」「指導のコツを知りたい」、演奏しているとそんな風に思うことは多いでしょう。
上手くなる、合わせる、レベルアップする、これら全てに共通する大切な「耳の良さ」について抑えておくと今後の音楽ライフがもっと楽しくなっていくもの。
今回はそんな演奏する上でなくてはならない耳の良さについてまとめてみました。
もくじ
演奏に絶対に必要なスキル
奏法や譜読み法やアンサンブル技術などよりも大切な演奏に必要なこと、それは耳の良さ。
どんなに演出やビジュアルにこだわってもやはり音楽は耳で聴いて楽しむものというのは否定できないでしょう。
ということは演奏上の探求をするにも、またどんな音が出たのかが自分でちゃんとわかるためにも、耳の良さは絶対に必要な要素です。
しかし耳の良さと言われても具体的に何が出来ることなのか教わる機会はなく、あやふやになりがちなことでもあるかもしれません。
この耳の良さってつまり何なのでしょうか?
音程の高低がわかること?
絶対音感?
それとも別の何かでしょうか。
耳の良さとは
演奏に関わる耳の良さというのは聴力検査で測れる数値とは全く別のもの。
聴力検査で測れる振動を感じる機能の問題とは違うのです。
そして絶対音感のことでもありません。
音程の高低が判別できることだけでもありません。
演奏に必要な耳の良さというのは繊細な音色の変化やテンポの微妙な揺らぎ、周囲との関係性などを聴きわける感覚の細やかさのことです。
小さな変化や違いに気がつくことの出来る注意力ともいえるかもしれません。
その小さな違いというのはピッチやリズムなどの大雑把な要素だけでもないのです。
縦横だけじゃない音環境
ピッチやリズムが合っているかズレてるか、そういうことはトレーナーをしている方なら普通にわかることでしょう。
でも音楽はそういう大雑把な縦横だけではありません。
和声自体が持っている方向性や基音の違いによるバランスの移り変わり、奏者の吹き方による倍音構造の変化なども聴こえていたいもの。
トレーナーというのはただみんなの前に立ってチューナーとメトロノームをチェックしていればいい、というものではありません。
そしてこういう細かい部分を聴き取れる耳の使い方はソルフェージュを学ぶことで身につけていくものなのです。
才能は関係ない
「そんなに色んなことを聴くのは才能がないから無理だよ・・」と思ってしまうかもしれませんが、良い耳というのは運のいい人が生まれつき持っているというものではありません。
耳の良さはソルフェージュという耳のトレーニングを重ねることで後天的に身につけるもの。
なぜならこの聴く力は耳の機能によるものではなく育てることのできる「注意力」だから。
この注意力のことを総称してソルフェージュ能力と呼び、プロの奏者や上手なプレーヤーは何らかに手段で身につけています。
ほとんどが受験時代や音大在学中などにレッスンに通って訓練することが多いでしょう。
「良い音」は世界共通ではない
複数の音を聞き分ける能力や小さな振動を感じる能力が優れてる人はいますが、音楽は世界共通ではなくそれぞれの文化的価値観があって成り立ってるもの。
どんな音がいい音だと思うかは文化的な背景によって違うのです。
だから生まれつき音楽的な耳を持ってるように見える人も何らかのトレーニングはしているもの。
たとえば小さい頃から遊びの中や家庭環境の影響などでたくさん身近な文化の音楽を聴き門前小僧的にトレーニングしていているため本人は訓練を受けたとは思っていないケースなど。
でもそれは「何もしていないけど出来る」ではありません。
自覚のある無しに関わらずトレーニングして身につけているスキルだからこそ、あなたも今からでも身につけることが出来る可能性があるのです。
大人の方が早く効果が出るトレーニング
この耳の感度の繊細さ、注意力は大人になってからでも身につけることもできるもの。
なぜなら注意力を養う作業は年と共に衰えていく筋力や骨密度などとは関係なく、脳の回路を繋ぐ作業だから。
「頭は使うほど良くなる」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。
脳の回路は使えば使うほど強くなり、判断や理解も速くなるものなのです。
そしてソルフェージュのトレーニングはその脳の活性化という側面が大きいもの。
だから何をトレーニングしているのか自覚的になれる大人の方がむしろ早く効果が出たりすることも多々あります。
世の中には大人になってから音楽の勉強を始めたのにちゃんと音楽のお仕事をできている人がたくさんいるというのが良い証拠でもありますね。
だからもし本当に身に付けたいと思うなら「自分はセンスがないから」「小さい時からやってないから」「先生は才能があるんでしょ」なんて諦める必要はありませんよ。
耳が良くなると出来ること
それでは縦横だけではない耳の使い方、これができると一体どんな良いことがあるのでしょうか?
良い耳があるとできるあれこれをいくつか見ていきましょう。
有名奏者のどこがすごいかわかる
例えば、繊細な揺らぎや変化が聴き取れたら、有名な奏者の演奏を聴いた時にどこがどうすごいのかわかります。
何がすごいのかわかったなら、その奏者の良いと感じたポイントを自分の演奏に取り入れることができます。
せっかく素晴らしい演奏を聴いても、周りに合わせて「良かったねー」なんて言いつつ、実はさっぱり意味がわかっていない。
それではチケット代も時間も体力も、何もかもが勿体無いですから。
もし生徒や後輩に「演奏会に行きましょう」「生演奏を聴きましょう」と伝えるなら、どこにどう注意して聴いたらいいかも一緒に伝えてあげられたら良いですね。
キャッチしたい情報を受け取れる耳を育ててあげるのはトレーナーとしての大切な役目の一つです。
フレーズの運び方がわかる
和声の持つ方向性が聴き取れるなら、どの奏者がどんな音運びをするとハーモニーが意味を持つことが出来るかわかり、全体をまとめながら音楽作りをすることができます。
和音は前後の組み合わせで役割が決まると言われていますが、単体でも明確な方向性を持つものもあります。
それを知らなければ今の音が次の音に向かってどう進んでいくのかをイメージすることが出来ず、出てきた音を聴いてイメージを膨らませるしかなくなるので目の前にある音の縦横を揃えるくらいしか出来ることがなくなってしまいます。
それでは打ち込み音源を鳴らす方がずっと正確に楽譜を再現できますし、人間が演奏する意味がありませんね。
バランス作りが上手くなる
ハーモニーは全ての音が同じ音量で均等に鳴っていると崩れて濁って聴こえるもの。
合奏の中で大きめに出る必要のある音と抑えめの方がハマる音というのが存在します。
基音の違いによるバランスの移り変わりが聴こえていると、その場でのバランスの変化に対応して音量調整できるようになります。
「チューナーでは合ってるのにしっくりこない」の原因はバランスの崩れのことが多いので、指導する立場のときには持っていたいスキルのひとつです。
トンチンカンな指示が減る
また、奏者の吹き方による倍音構造の変化がわかると、高音がキツくなったり低音が埋もれたりするときに奏者がどんな奏法をしたから音が変化したのかを理解することができます。
例えば高音が飛び抜けて聴こえるときに低次倍音が殺されているからなのか倍音全体がバランス良く鳴っているからなのかによって対処方法も指示も変わるもの。
低次倍音が殺されて高音がキツく聴こえるピッコロに「もう少し抑えて」なんて言ってしまっては逆効果。
目の前で起こっていることに対して的確な判断や指示が出来ることはトレーナーとしてはなくてはならないスキルです。
大人奏者向けのソルフェージュ
演奏するのにも指導をするのにも欠かすことのできない聴く力であるソルフェージュ力。
これは大人になってからでも身につけることができるものであるということを書いてきました。
もしもソルフェージュをやってみたいという場合は、受験用や子供用のソルフェージュトレーニングではなく演奏に直結する形で学ぶことをお勧めします。
子供用ソルフェージュでは「串に刺さった音符がドですよ」「8分音符はタンタンね」というような内容になるのですでに長年演奏してきている社会人奏者には合いません。
そして受験用のソルフェージュは試験として採点しやすいように作られており、実は演奏に直結する内容ではありません。
ということで、大人奏者が演奏のためまたは指導力アップのために学ぶならソルフェージュのトレーニングを受けたことがあり実際に演奏活動をしているプレーヤーにレッスンをしてもらうのが最も役立つ内容になるのでおすすめです。
首都圏の方向けの対面レッスン、地方の方向けオンラインレッスンは当教室でも大人奏者のためのソルフェージュを開講していますが、まずは身近なところで探してみると良いかもしれませんね。