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個性的と奇をてらうの違い

 

楽譜の通りに演奏したら自分の個性やオリジナリティが出せない、そんな意見を耳にすることがたまにあります。

アドリブが必要なものだと楽譜はリードシートと呼ばれる曲の大枠だけを示したものなので、そのままやっても確かに面白くないかもしれません。

それにバロック時代や古典の作品は即興的に装飾を入れたりカデンツァを自分で作ったりすることが求められていて、その余地を残した楽譜の書き方をされてることもあるものです。

反対にちゃんと書き譜になっていてアドリブで音を選ぶ必要のない曲は、楽譜の細部に至るまで作曲家が伝えたかったことですから、勝手に音を変えたりするのは作品への冒涜になってしまいます。

ではそんな中でも出てくる奏者によっての違いや個性って、どこから来るのでしょうか。

和声や旋律によって示されている盛り上がりや落ち着きやその他色々なグラデーションの色合いなどは、解釈によってそんなに大きく変わるものではありません。

また、con fuoco(火のように激しく)と作曲家が書いたのを「オレの解釈はこうだ!」なんてmorendo(死に絶えるように)にするというようなものは、解釈の個性ではなく作品の改変です。

それでも例えばどんな落ち着き方なのか盛り上がり方なのか、変化させる度合いはどのくらいか、どの声部を際立たせるか、そんなことを考えると同じ楽譜を同じように読んでいても表現は無限に違って来るもの。

わざわざリズムを崩して書いてある音よりも長く伸ばしたり、テンポをとんでもなく速くしたりなんていう奇をてらうことはしなくても充分違いは出てきます。

「自分の個性を出そう!」「わたしはどの曲もこうやるのがトレードマークなんだ!」そんな風に考えなくても、人それぞれ考え方や話し方が違うのと同じように解釈というのは自然と出てくるもの。

それを意図的に作品を歪ませて奇をてらうようなことをしてしまうと、「この人の演奏はなんだか変だな」「気持ち悪い歌い方」という印象につながるのではないでしょうか。

作品を通して自己主張がしたいのか、それとも作品の良さや魅力を聴く人に伝えたいのか、個性について考えるときには心に留めておきたいものですね。

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  • この記事を書いた人

有吉 尚子

1982年栃木県日光市(旧今市市)生まれ。小学校吹奏楽部にてクラリネットに出会い、高校卒業後19才までアマチュアとして活動する。20才のときに在学していた東京家政大学を中退し音大受験を決意。2003年洗足学園音楽大学入学。在学中から演奏活動を開始。 オーケストラや吹奏楽のほか、CDレコーディング、イベント演奏、テレビドラマBGM、ゲームのサウンドトラック収録など活動の幅を広げ2009年に洗足学園音楽大学大学院を修了。受講料全額助成を受けロシア国立モスクワ音楽院マスタークラスを修了。  及川音楽事務所第21回新人オーディション合格の他、コンクール・オーディション等受賞歴多数。 NHK「歌謡コンサート」、TBSテレビドラマ「オレンジデイズ」、ゲーム「La Corda d'Oro(金色のコルダ)」ほか出演・収録多数。 これまでに出演は1000件以上、レパートリーは500曲以上にのぼる。 レッスンや講座は【熱意あるアマチュア奏者に専門知識を学ぶ場を提供したい!】というコンセプトで行っており、「楽典は読んだことがない」「ソルフェージュって言葉を初めて聞いた」というアマチュア奏者でもゼロから楽しく学べ、確かな耳と演奏力を身につけられると好評を博している。 これまでに延べ1000名以上が受講。発行する楽器練習法メルマガ読者は累計5000名以上。 現在オーケストラやアンサンブルまたソロで演奏活動のほか、レッスンや執筆、コンクール審査などの活動も行っている。 「ザ・クラリネット」(アルソ出版)、吹奏楽・管打楽器に関するニュース・情報サイト「Wind Band  Press」などに記事を寄稿。 著書『音大に行かなかった大人管楽器奏者のための楽器練習大全』(あーと出版)を2023年8月に発売。Amazon「クラシック音楽理論」カテゴリーにて三週間連続ベストセラー第一位を獲得。 BODYCHANCE認定アレクサンダーテクニーク教師。 日本ソルフェージュ研究協議会会員。音楽教室N music salon 主宰。管楽器プレーヤーのためのソルフェージュ教育専門家。クラリネット奏者。

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