より良い演奏をしようと努力しているはずなのにどうも上手くいかない。
そういう場面では身体の構造に沿っていない奏法をしようとしたり、効果の出にくい思考をしていたり、ということも多いもの。
実は逆効果になるようなことを心がけてしまっていないかどうか、例を挙げつつ見て行ってみましょう。
ノドは開けない?
管楽器奏者が一番気になっているブレス。
このブレスのときに「ノドを開いて!」「あくびをするように」などの指示をよく耳にします。
まずはそんなノドの話題から。
驚くかもしれませんが、実はわたしたちは意図的にノドで何かしようとするとき、大抵は締めてしまっているのです。
というのは、ノドの周りには気道を広げるための筋肉というのは存在しないから。
筋肉は動きとしては基本的に縮む働きしかできません。
自主的に伸びることはできないのです。
咽頭筋などノドの近くに筋肉はありますが、これも働けば収縮するだけなので息の通り道は狭くなるだけです。
だから「ノドを広げよう!」と思って何か頑張ってみても大抵の場合、逆効果になってしまうということ。
ではよく聞く「ノドを広げる」の本当の意味はどんなことなのでしょうか。
ブレスのときに出る音と変な声
それではノドを広げると言われる時、どういうことが起きることが望ましいのでしょうか。
実はこれは声帯の動きと関係があるのです。
子供のときに、息を吸いながら声を出す遊びをやったことありませんか?
急いでブレスをするときについ出てしまう変な声、緊張したときのブレスでついうっかりやってしまったことはきっとみなさんありますよね。
声帯が閉じていながら空気がノドを通るとそういうことが起こります。
普通に声を出すときと、仕組みとしては同じなのですね。
そして声が出ちゃってる時は空気がいつもよりも少なくしか肺に入って来ないでしょう。
声帯が空気の通り道を邪魔してるのですから当たり前です。
また他にも舌や咽頭筋などで息の通り道を邪魔していたら音が出るものです。
スーとかホーとかハーとか、音の種類は関係ありません。
何かしらの音が出るのは空気の通り道が邪魔されている証拠。
ではどうしたら効率良くブレスができるのでしょうか?
効率的なブレスの方法とは
ブレスの時にはよく言われるような
・あくびをするような
・舌を下げて
なんてことをする必要はありません。
瞬間的にあくびの状態を作ろうとするのはさらなる余計な力みを生んでしまうことの方が多いですし、舌を下げる動きは結果的に気道を狭くしてしまいます。
まずは何の音も出ないように静かに息を吸ってみましょう。
楽に空気が肺に流れ込んできたのではないでしょうか。
息を吸っている!という実感はあまりないと思います。
それでいいのでしょうか。
結論からいうと、それでいいのです。
なぜかというと単純な物理のお話ですが、息を吸っている!という実感を得るための空気の通ってる感じがするのは、空気の通り道が狭くなって抵抗感があるから。
抵抗感として空気が通ってる感じがしたり空気の動く音がしたりすると、やってる感というか頑張ってる感がありますね。
でも、これでは実際は息の通りを邪魔してしまっています。
音がしないように吸ったとき、いつもより楽にたくさん空気が入ってきたでしょう。
それが演奏のために効率的なのはまったく疑問の余地がありません。
お腹を固くする弊害
よくあるもう一つの例として、息を吐くときにお腹を固める動作があります。
腹筋を使って!
息の支え!
なんて言われるとついお腹の筋肉を固めてしまうのは自然なこと。
ところがお腹をカチカチに固くするのは、疲れやすくなる上に息を吐くことを邪魔します。
これもやってる感じはとてもしますよね。
でも。
息を吐くときにはお腹は柔らかく動き続けている必要があります。
たとえば均等に息が出ていくなら、一定の速度で空気が動き続けるようにコントロールをし続けることが必要です。
お腹をカチカチにしてしまうとそんな繊細なコントロールはできません。
コントロールし続けるのは固めるのと違います。
では逆効果になるのになぜブレス音をたてたりお腹を固めたくなってしまうのでしょう。
これは吹奏楽出身の方には根の深いことかもしれません。
頑張ってる感はいらない
本当は楽にたくさん息を吸える方法を知っているのにわざわざ音を立てて吸ってる感じを得ようと抵抗感を作ったり、吹き込みには逆効果になるのにお腹を固めたりしたくなってしまうのでしょうか。
これって吹奏楽の出身者には結構あるあるな思考パターンが原因になっていることも多いのです。
コンクールに向けてや定期演奏会に向けて体育会系な訓練を積み重ねてくると、良い演奏のためには辛い努力が必要なんだ、と思い込んでしまうことも少なくないでしょう。
でも実際、練習が辛いかどうかと演奏のクオリティは本当は関係ありません。
それなのに効率的で演奏のクオリティも上がるやり方を知ると、「良い演奏のためには辛い思いをしなければいけないのに、こんなに楽に感じるのはダメなのではないか?」なんて考えるようになることも。
そんな思考が実際は役に立たない無駄な頑張ってる感を作り出したくなってしまう理由のひとつ。
辛い思いをするかどうかはどうでもよくて、本当は思ったように演奏したい!というだけのことなのにいつの間にか目的がすり替わってしまうのです。
正しい知識が上達を助ける
頑張ってる感はとてもあるけど演奏の邪魔をしてしまう、そんなことって意外に結構あるもの。
より良くなるためと思っていても、本来の心や身体の仕組みを知らないと遠回りをしたり逆効果になるトレーニングを積んだりしてしまいます。
わたしたちは自分で思っているほど自分の心と身体の仕組みについての知識がないのです。
医学、解剖学、心理学などなど専門的に学ぶための分野があるくらいですからそれも当然。
だとしたら演奏に関わる部分だけでもピックアップして知ることが、無駄な怪我やトラウマを産まずに練習効率を上げるために役に立つかもしれません。
つまらない思い込みのせいで辛くて大した意味のない練習を延々としてしまうなんていう時間とエネルギーのもったいないことはしたくないものですね。