一見めんどくさく複雑そうな和声(和音の繋がり)、読み解いてみると歌い方のヒントになっていたり、全体の構成がよくわかる案内図になっていたりと面白いものです。
アナリーゼと言われると大変そうですが、ストーリーを読み解くヒントとして今回は簡単な役割の見分け方などご紹介します。
もくじ
ハーモニーは3種類
和音とひとことで言っても、落ち着きや盛り上がりや色々な雰囲気の違うものがたくさんあるもの。
でもそれって実は大きく見ると3種類に分けられるのです。
たくさんある和音の性格を一つ一つ全部覚えるのは大変でも、たった3つだけならなんとなく理解できそうな気がしませんか?
簡単なので見てみましょう!
落ち着きを感じる和音
一つ目は落ち着きを感じる和音。
その和音が聴こえるとなんとなくホッとする安心感のある和音です。
それを「トニック」と呼びます。
どの和音がどんな役割になるのかは調によって変わるので「ドミソなら必ず落ち着き」とは言えませんが、C-durで考えるならドミソが一番代表的なホッとする和音です。
色合いを付ける和音
次に色付けをする和音。
これはなんとなく華やかだったり切なげだったりと、少しだけ盛り上がりを感じる和音です。
「サブドミナント」という名前で呼ばれます。
ドミソに対してファラドが聴こえるとふわっと華やかな感じがしますよね。
それがサブドミナントです。
盛り上がり和音
最後の三つ目は盛り上がりを担当する和音。
これはソワソワ感があり盛り上がっている和音で、その次にホッとする和音に戻りたいエネルギーを持っています。
戻るためのエネルギーは推進力になるので、先に進みたいパワーがあるのです。
これは「ドミナント」と言います。
ドミソに対するソシレがそれですね。
聴き方のコツはありますが、「落ち着き、色付け、盛り上がり、この3種類のどれが今の場面の和音なんだろう?」なんて考えながら聴いているだけでも、少しずつだんだん違いがわかってくるもの。
ぜひ日々耳にする音楽で試してみてくださいね!
和音の性格と役割あれこれ
こんな風に音量や音色の変化の参考になる3つに分ける見方ですが、単純な「落ち着き」と「色付け」と「盛り上がり」だけではなくその中でも細かく何種類かの和音があって、色合いや役割も違っています。
それぞれの和音の色合いの違いも見てみましょう!
トニック( Ⅰ、ⅵ )
まずは落ち着きを表すトニックの和音について。
これはC-durの和音度でいうとドミソの一度とラドミの六度、この二つがあります。
この二つはドとミが共通の音でもあり、なんだか似ているのですが、使い方はちょっと違います。
ドミソの一度は曲の最後などで使われる、一番ホッとする帰ってきた感の強い和音です。
ラドミの六度はホッとする感じはありますが、完全に終わった感じはしません。
ほんとかな?と思ったらスマホのピアノアプリか何かで実際に音を聴き比べて見ましょう!
最後が一度だとこんな響き▼
最後が六度だとこんな響き▼
この六度の和音に行き着くと何だか収まりが悪くて座ろうとした椅子を引っ込められたような感じがします。
終わる場面に使われた時は「偽終止」なんて呼ばれることも。
偽の終わりという雰囲気だからでしょう。
演奏する時に例えば、C-durでフレーズの語尾がドだとしても完全にホッとする和音の中のドなのか、それとも偽終止のちょっと騙された感のある和音の中のドなのかで表情を変える必要がありますよね。
役割りとしては同じ落ち着き和音なのに面白いですね!
ドミナント( Ⅴ、Ⅶ、Ⅴ7 )
では次に盛り上がりの役割であるドミナントの和音にはどんなものがあるのか見てみましょう。
まずよく知られている五度や属七ですね。
他には七度も属七の根音省略形という亜種みたいなものなので、ドミナントの仲間です。
では。
五度と属七はどんな風に使い分けられてるのでしょうか。
この二つの違いは7の音が入ってるかどうかなのですが、それは聴いた時に感じられるのは和音が濁ってるかどうかの違いです。
真ん中に五度が挟まると
挟まるのが属七だと
濁っていないただの五度よりも、濁っている属七の和音の方が当然ながら解決したい感は強くて、より推進力が強いもの。
先に進むパワーがよりたくさんあるのですね。
そして濁ってる不安定感というのは、興奮や盛り上がりでもあります。
場面にもよりますが、わざわざぶつかる音を作曲家が書いた濁ってる和音の特色は、演奏するときにはぜひとも強調したいポイントです。
曲の中で音量をわずかに変化させるようなことも演奏中はありますが、濁りを回避したくて五度よりも属七を小さくしてしまったりすると、せっかくの強調したいはずの和音の特徴が隠れてしまって意味のわからない演奏になってしまいます。
演奏中に他の奏者とぶつかったりなど"あれ?"と思う音があったら「あえてこの音を入れたのはどういう意図なのかな?」と考えてみると作曲家の考えていたことに少しでも近づけるかもしれませんね!
サブドミナント( Ⅱ、Ⅳ )
ここまでに落ち着き和音と盛り上がり和音の役割りを詳しく見てみました。
では最後にサブドミナントについてです。
サブドミナントはドミナントに比べると少し柔らかい印象でしょう。
盛り上がり感はドミナントよりは弱いので、落ち着き和音のトミックに解決したい感はドミナントほど強くはありません。
そのかわり色彩感がとても強く出てくるので、落ち着き和音から繋がった時に色付けされて新しく展開していく感じがするもの。
そんなサブドミナントにはどんなものがあるのでしょうか。
C-durならレファラの二度とファラドの四度ですね。
この二度と四度、同じサブドミナントの仲間ですが色合いが少し違います。
詳しく見てみると、四度はファラドで長三和音、
(真ん中に挟まってるのがそれです)
そして二度はレファラで短三和音です。
(同じく真ん中の和音)
長和音と短和音の違いである明るいか少し陰りがあるか、ということがそれでわかります。
そして二度は四度よりも少しだけ固い感じがします。
それはただ単に陰りのある和音だからではありません。
なぜなのでしょう?
ジャズのコード進行にはツーファイブ( Ⅱ → Ⅴ )というのがあるのを聞いたことがあるでしょうか。
実は音大の和声学の授業でもよく出てくる和音のスタンダードな進行(並べ方)なのです。
なぜ固い感じがするかというと、五度の根音から数えて二度の根音は5番目の音なので、五度に向かいたいエネルギーがあるから。
(ちょっとややこしくなってきましたが、あと少しだから頑張りましょう!)
盛り上がり和音って、色付け和音よりも固くて推進力がありましたね。
二度は五度に対しての盛り上がりのような役割もあるので、四度より固い印象になるのです。
四度と二度、同じ色付けの機能ではあってもこんなエネルギーの強さの違いもあるなんて興味深いですね!
抑揚のつけ方のヒントとして
こんな風に和音には、「どんな風に抑揚をつけたらいいんだろう?」と迷った時の解決のヒントがたくさん隠れています。
和音のことは作曲やアレンジをする時だけでなく、演奏をするときにも必要な知識なのです。
では和音を一体どう使ったら、演奏するときの抑揚のヒントになるのでしょうか。
たとえば古典派時代の作品では、楽譜にはクレッシェンドやディミネンドなど音量指示はほとんどされていないということも多いもの。
そういう楽譜でも演奏する時は盛り上がってるところに向かってクレッシェンド、逆に落ち着いたところに向かってはディミネンドを自然にかけていくことはもちろんします。
その盛り上がるところや落ち着きに向かうところを何となくの感覚で見てしまうと、全体の整合性や作品のストーリーの筋が通らなくなったり、またはその日の気分によって全然違う表現になってしまってアンサンブル仲間を混乱させたりするでしょう。
そういうときに感覚だけに頼らず和音のつながり方(和声進行)を見てみると、どう演奏して欲しいのかがわかったりするのです。
具体的に例を挙げるなら、属七や属九などドミナントのそわそわした感じは盛り上がりで、一度や六度などトニックは落ち着き。
大抵の場合、盛り上がりから落ち着きに行く時は帰ってきて収まる風に演奏します。
落ち着き和音のトニックに戻ってきたホッとする場面でさらに盛り上がる表情の音を出してしまうと、作品のストーリー展開がおかしなことになるでしょう。
(トニックに向けてアンサンブルを厚く音圧を増して行くように書かれていたらクレッシェンドするような場合も、もちろんたくさんあります)
和音の役割(和声の機能)がどういうものなのかを判断してそれに見合った表情で演奏する、それが楽譜を音にするという作業のひとつの要素です。
そんな細かな違いを意図して書かれたものだとわかると楽譜って果てしなく読み込める面白いものですね!
ぜひ表情の変化に和音の情報も取り入れて演奏してみてくださいね!