高音に跳躍するときなどつい左肩を上げてしまう動作、クラリネットやサックス奏者にあるあるな光景だと思います。
「肩を上げるな」
という指示は身体の構造上吹きにくくなってしまう面もある言葉だという記事は以前にも何度かご紹介しています。
呼吸のために可動する肋骨を邪魔しないための動きとして全身のバランス変化と共に肩も動く、ということではなくここで言うのはあえて持ち上げる謎の動きのこと。
なんだか音楽を歌っているような、酔いしれているような、場面によってはかっこいい動きに見えるかもしれません。
アレクサンダー・テクニークの教師養成クラスで、とても多くの奏者がこの動きを無意識にやっているのできっと何かしら必要な動きだろう、でもそれは何なのだろう?
という話題になったことがありました。
実際に演奏動作として何かしら効果があると思っているからプロアマ問わず多くの奏者がやっているのでしょうから。
肩を上げたくなるのはなぜ?
吹いてみるとわかりますがわたしたちクラリネットやサックスの奏者が高音への跳躍をするときにはアンブシュアや息だけでなく楽器の角度やリードの接触圧力も変化させています。
とはいっても外から見て誰にでもわかるような大きな動きではなくごくごく微細な範囲のものですが。
この微細なレベルの動きのひとつにリードへの圧力を減らして振動しやすくするということも含まれています。
そしてそれを効率的にするのは親指で管体を上の歯に向かって押しつける動き。
筋肉としては大胸筋と上腕三頭筋あたりの働きが必要です。
ただし大胸筋と上腕三頭筋は腕の大きな動きを引き起こす強力な筋肉なので1ミリより小さい繊細な動きのコントロールをするのは不慣れな面も。
だからこそ!
シングルリード奏者はそのリードをフリーにするためのマウスピースの押し上げを直接的に大胸筋や上腕三頭筋でなく肩から腕を引っ張り上げることで間接的に引き起こそうとするのではないか、と思うのです。
肩を上げると息は浅くなり指は動きにくくなる
ところがこの肩で微細な圧力をコントロールするというのはとても疲れる上にブレスや指回りに悪影響が出ることも。
意味があってやっていることなのにじゃあどうしたらいいのでしょう。
日常動作としては大胸筋や上腕三頭筋など大きな筋肉は大きな動きを引き起こすことが多いものなのでわたしたちはその感覚に慣れています。
だから微細な動きのコントロールは苦手なのではないか?
と思っているのが肩を持ち上げて間接的にリードへの圧力を減らそうとする理由です。
でも実際のところ本当に腕は微細なコントロールは苦手なのでしょうか。
肩を上げなきゃ跳躍はできないの?
腕のコントロールの精度がどれくらいなのか試しに自分の手のひらを反対の手の親指で軽く押してみましょう。
もしかしてごはん粒のような小さくて脆いものを手のひらに持っていたらギュッと潰すことはもちろん出来ますよね。
そしてごはん粒を潰さないようにそっと押さえることも出来ます。
さらにごはん粒が半分くらい潰れるような圧力変化は作れるでしょうか。
出来ますよね。
(もしも指先でやったらこの実験は無意味ですよ。腕を使ってやってみましょう)
腕に関わる大きな筋肉でもこんなに微細なコントロールができるものなのです。
では高音でリードが振動しやすくなるために圧迫を減らす管体の押し上げは腕の力で出来るでしょうか。
もちろん出来ます。
それどころか肩から腕全体を引っ張り上げるときより精度の高いコントロールが出来るはず。
そうなのです。
わたしたちは「腕でやったらやり過ぎになるかも」と思い込んでいたけれどそんなことはないのです。
なんと跳躍を成功させるために肩周りを引き込んで窮屈にして呼吸や指回りが不自由になる必要は別になかったなんて!
身体の仕組みを知らないと苦労する
もっと自分の身体について知っていたらより効率的な選択が出来ていたはず。
これは身体について勘違いがあったから苦労していたというパターンですね。
より良い選択肢があることに気がつくとコントロールの精度は上がるし疲れにくくなるし指回りも良くなるし良い事ずくめでした。
この動きは合理的でないからやってはダメ、と決めつけるのではなくどんな良い意図があって引き起こされたことなのかを考えられるのはアレクサンダー・テクニークの良いところだなと思います。
興味深いのでぜひ音を出しながら変化を試してみてくださいね!