アレクサンダーテクニーク 思考と心 本番 練習 身体の仕組み

ゆっくりからのテンポ上げ練習

テンポを落としてゆっくりから練習する、それが大切だとはよく言われます。

けれどテンポを落とした練習の効果や正しい進め方を知らない方は少なくありません。

今回はそんなテンポを上げていく練習について考えてみます。

インテンポの練習とゆっくりの練習

まだ不慣れな曲でも練習の目標となる本番のテンポを味わうためや、全体の流れを把握するために、ちょっと無理してインテンポで吹いてみるようなことはあるでしょう。

そういうときは細部がきちんと出来ていなくても、とにかくテンポから遅れないよう多少細かいところを端折りながら吹くこともあるはず。

この場合の目的は細部を詰めるということではなく、インテンポの雰囲気や吹き心地を知ることです。

そんなときに「ちょっと待って、ここの音がまだ入ってないから止まって」なんてやっていたらさっぱり意味がありません。

間違えようがつまずこうが止まらず進むことが必要なときもあるものです。

とはいえ。

日々の練習で毎回このインテンポの感覚を掴むことばかりやっていても、細かいところを整えていくことはできないでしょう。

だからこそ、細かいところを見るときにはテンポを落としてゆっくりから、慌てたり混乱せずに音符が読め、一音ごとにどんな盛り上がりや落ち着きのニュアンスにするかまで考えられる状態で練習するのです。

ゆっくり吹く練習とテンポを上げた練習の目的はそれぞれ違っているものなので、これを混同してしまうと練習効率も落ちてしまいます。

いちいち練習の目的を考えるのは面倒くさいかもしれませんが、「この練習は何のために行うのか」ということを理解していれば、やたらとフレーズを繰り返すだけの無駄な時間を過ごさなくて良くなりますよ。

 

テンポ上げ作業について

テンポを落としたときの練習の中身

練習するときに複雑な箇所はゆっくりから吹いていくかもしれませんが、それってイコール丁寧な練習なのでしょうか?

確かにまだ譜読みや技術的な面が追いついてない状態でインテンポにするよりは丁寧でしょう。

とはいっても残念ながらただ単にゆっくり練習するだけでは全然上手くならない、というケースもあるのです。

もしかして日常の練習の中で、ぼんやり何の表情もなく、「楽譜に書いてあるから」というだけの意図で音を無意味に出している瞬間はありませんか?

ニュアンスが曖昧で表現が迷っているのはどこなのか、自分で聴こえていますか?

ちょっとだけニュアンスをつけてみても、テンポが上がれば聴こえにくくなるしわかりにくくなります。

速くなっても表情が聴こえるくらい充分に明確に音の変化を付けていますか?

ゆっくり吹くからこその練習をせず、ただテンポを落とすだけなら音符の並びを把握するだけの時間になってしまいます。

・ひとつひとつの音の発音は?

・語尾の処理はどうなっているか?

・歌い方やニュアンスはどうするか?

そんなことをテンポを落とした時に考えたいのです。

ゆっくり吹いたときにも色々な表情があって全体が隙無く音楽的だったら、テンポを上げたらすごく素敵な演奏になるでしょう。

そのために付けたいニュアンスをあちこちに仕込むために、ゆっくり分解して練習するのです。

テンポを落とす目的は「音を覚える」「楽譜を知る」そんなことだけではありませんよ。

練習の中身について考えてみると、意外にもっともっと出来ることが見つかるかもしれませんね!

 

テンポを上げるタイミング

「ゆっくり練習するのは大切ですが、vivaceやprestoの曲はどのタイミングでテンポを上げたらいいのでしょうか?」

というご相談をいただきました。

どんなに完成テンポの速い曲でも、ゆっくりテンポから丁寧に練習するのはやはり効果が高いものです。

とはいえ、いつまでもゆっくりのままでは埒が明きませんし、テンポを落としてゆっくり本番でも演奏するなんてわけには行きませんもんね。

いつから速くしていくのがオススメかといいますと、ゆっくり練習していたテンポが絶対に間違えない完璧な状態になったときです。

そのタイミングで、使っているメトロノームの一番小さい目盛りをひとつ分だけ上げるのがオススメです。

たった一目盛りだけのテンポアップだと舐めてはいけませんよ!

小さなほんのすこしずつの蓄積がテクニックを作るのです。

その一目盛りがまた完璧に吹けたら、次の一目盛り分をテンポアップします。

それを続けていくと、わたしは大体1日に15くらいテンポを上げられます。

今日はもうこれ以上テンポを上げたら崩れたり滑ったりする箇所が出てきかねないな・・と感じた練習の最後の時に、ものの試しにもう一目盛りだけテンポを上げてみます。

ほんの少しでも吹き込みが甘くなって軽い音が出てきたり指が引っかかったりしそうな気配を感じたら、実際に引っかかったりしなくてももうその日はテンポを上げません。

もう一度思い切ってゆっくりにして確実に出来るテンポで一回吹いて、「出来る感覚」を覚えて練習を終えます。

日々そういうほんの小さな自分へのチャレンジを続けていると、いつの間にかインテンポまで上げられているものです。

個人的にわたしの例で言うと、「Allegrissimo」なんて表示のある160くらいで16分音符が続く曲でこの練習の仕方を毎日行うと、大体1ヶ月半くらいでインテンポで吹けるようになります。

「明日はテンポを50上げよう!」など一度にたくさんのテンポアップをしてしまえば、それは混乱と崩壊の練習をするようなもの。

いつテンポをあげるかの答えは「一つ前のテンポが絶対確実と言えるくらいできたとき」ということになります。

参考にしてみてくださいね!

 

ちょっとしたまぐれのミスの扱い

テンポを上げるタイミングの目安である「一つ前のテンポが絶対確実と言えるくらいできた」という判断をするにあたって、気をつけたいことがあります。

それは小さなズレを軽視することです。

「ちょっとくらいのミスや指の滑り、リズムのほんの些細な崩れ、音程がたまたま外れた、そんなことは小さなことで大したことじゃないしまぐれだし。」

そんな風に一見些細なちょっとした結果のズレを見ないふりしてしまうことはありがちです。

そして小さなまぐれのたまたまの間違いやハプニングを繰り返して、それを習慣化してしまうケースはとても多いものです。

また、習慣化された小さなミスは積もり重なって大きなズレやトラブルにも繋がって行き、いつかあやふやな音程リズムで吹くことが当たり前に感じる耳と、望んだ音楽ではないものに妥協する心を作ってしまいます。

そして大事な場面で思ったようにフレーズが演奏出来なかったり、失敗したりなど痛い目を見るような大きなズレが起きてから「ちょっと間違えることもあるけど普段は大体できているのに・・・楽に完璧にできるような裏ワザを誰か教えてくれないかな?」などと思うのです。

でも結果はそれまでの自分の意図が作り出しているもの。

自分が思った通りの精度でやろうとしたことが起きている状態です。

習慣化された大きなズレを改めて直すためには、大変な時間と労力と場合によってはお金もかかります。

ハイスピードで上達していく人やプロとして演奏してる人は、そういう小さなもしかしたら気のせいかもしれないようなズレをきちんと拾って分析対処します。

だから大きなズレになってから修正する時間と労力を使わないのです。

練習のコツを知りたいなら、本当に必要なのは小技や裏ワザなんていうものではなく、些細なことに目を向ける注意力を育てることをオススメしたいと思います。

 

まぐれで出来た後に

「長いこと練習を続けてきてようやく出来るようになった!」

そんなことがあったとして、それはもういつでも使えるスキルになったのでしょうか。

わたしは受験時代にレッスンで複雑なパッセージを吹いた時、「いま出来たのはたまたまのまぐれかもしれないからもう一回やってごらん」と先生に言われたことがありました。

まぐれ、面白い言い方ですよね(笑)

何か起きることには原因があって、それから結果がついてくるもの。

ですが本人が意図していない何かへの反応で偶然上手く行ったのだとしたら、もう一度同じことをしようとしても再現できないはずです。

例えば棚から物が落ちた音にびっくりしたはずみに普段できないことができちゃった、というケース。

それは自分の意図が引き起こしたことではないので再現性がありません。

そういう偶然の要因でたまたま出来たとしても、本番のときに同じことで驚いて超反応をすることは狙えませんから。

「まぐれかもしれない」というのは信用が無いとかそんなことではなく、再現できる意図が本人にきちんとあったのかどうかの確認だったのです。

それ以来練習をするときには、出来たことに根拠と再現性があるどうかを大切にしています。

たまたまなのか狙った結果なのか、漫然と練習せずに気にしておきたいことのひとつですね。

 

テンポアップのゴール

ゆっくりからだんだん速くしていく練習をするときに、いつもゴールにしているテンポってどれくらいですか?

もちろん曲によりますが、in Tempo として指定されているテンポまで練習するのでは練習不足になることもあるのです。

テンポを上げていくような練習は、通常は初回のリハーサルまでに済ませるべき作業です。

その作業を行なっている段階では、仲間と合わせたときにどんなテンポ感になるかはまだわかりません。

楽譜にテンポ指定があったとしても、もしかして少し遅いかもしれないし、少し速いかもしれません。

またもしも本番のときにほんの少し速くなるなら、それで崩壊する程度の練習では用が足りないわけです。

それに指定テンポでしか吹けなければ、歌い回しによる揺らぎには対応できないのですから。

ということで、わたしはいつもメトロノームで5から10目盛は目標テンポより速く吹けるように準備して初回リハーサルに臨みます。

安全策であり保険です。

そうしたら指定のインテンポはギリギリの限界ラインではなくなるので、心に余裕を持つこともできるでしょう。

演奏するときはテンポや指などテクニックのことではなく、音楽や歌のことを考えたいもの。

その心の余裕を作るのが、練習で積み上げたテクニック。

120指定のテンポなら130までは確実に出来るようにさらう、そんな準備の仕方を取り入れてみても良いかもしれませんよ。

 

 

賢い人の練習の仕方

「このパッセージは⚪︎日までに絶対に出来るようになっていなければ!」

など焦って練習するときって、ゆっくり丁寧に練習した方が早く身に付くのはわかっているのについ速いテンポで吹いてしまっては崩壊してしまう。

そしてさらに焦ってますますゆっくり吹けずにテンポが速くなってしまう。

だからこそ、いつまで経ってもさっぱり出来るようになっていかない。

そんな混乱のループに入ってしまうことってありませんか?

上手になる人とそうでない人の差は『ゆっくりから確実に積み上げることが出来るかどうか』という言葉があります。

確かにそうなのですよね。

必要な手順を踏まなければいくら焦っても身に付きませんし、焦らず一見時間のかかる手順を確実にこなすには強い意志力も必要です。

焦りにとらわれて出来ないテンポで吹こうとするときに、自制心はきちんと働いていませんもんね。

意志力を使って自分を制御するということは、何にも考えてない人には出来ません。

早く出来るようになりたいと本当に願っているときには、必要な手順を省略しないで丁寧に積み重ねていくことこそが、賢い人の練習の仕方と言えるかもしれませんね。

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  • この記事を書いた人

有吉 尚子

1982年栃木県日光市(旧今市市)生まれ。小学校吹奏楽部にてクラリネットに出会い、高校卒業後19才までアマチュアとして活動する。20才のときに在学していた東京家政大学を中退し音大受験を決意。2003年洗足学園音楽大学入学。在学中から演奏活動を開始。 オーケストラや吹奏楽のほか、CDレコーディング、イベント演奏、テレビドラマBGM、ゲームのサウンドトラック収録など活動の幅を広げ2009年に洗足学園音楽大学大学院を修了。受講料全額助成を受けロシア国立モスクワ音楽院マスタークラスを修了。  及川音楽事務所第21回新人オーディション合格の他、コンクール・オーディション等受賞歴多数。 NHK「歌謡コンサート」、TBSテレビドラマ「オレンジデイズ」、ゲーム「La Corda d'Oro(金色のコルダ)」ほか出演・収録多数。 これまでに出演は1000件以上、レパートリーは500曲以上にのぼる。 レッスンや講座は【熱意あるアマチュア奏者に専門知識を学ぶ場を提供したい!】というコンセプトで行っており、「楽典は読んだことがない」「ソルフェージュって言葉を初めて聞いた」というアマチュア奏者でもゼロから楽しく学べ、確かな耳と演奏力を身につけられると好評を博している。 これまでに延べ1000名以上が受講。発行する楽器練習法メルマガ読者は累計5000名以上。 現在オーケストラやアンサンブルまたソロで演奏活動のほか、レッスンや執筆、コンクール審査などの活動も行っている。 「ザ・クラリネット」(アルソ出版)、吹奏楽・管打楽器に関するニュース・情報サイト「Wind Band  Press」などに記事を寄稿。 著書『音大に行かなかった大人管楽器奏者のための楽器練習大全』(あーと出版)を2023年8月に発売。Amazon「クラシック音楽理論」カテゴリーにて三週間連続ベストセラー第一位を獲得した他、「音楽」カテゴリー、「クラシック音楽」カテゴリーでもベストセラー第一位を獲得。 BODYCHANCEおよびATI(Alexander Technique International/国際アレクサンダーテクニーク協会)認定アレクサンダーテクニーク教師。 日本ソルフェージュ研究協議会会員。音楽教室N music salon 主宰。聴く耳育成®︎協会代表理事。管楽器プレーヤーのためのソルフェージュ教育専門家。クラリネット奏者。

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