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メトロノームに合わせられない3つの原因と対処法

「ちゃんとテンポキープできるようメトロノームをかけながら練習しているはずなのに、肝心のメトロノームにちっとも合わせられない」というお悩みは意外に多いもの。

メトロノームに合わせるのはよくある練習方法でありシンプルで簡単なようですが、実は訓練されていない耳では結構難しいトレーニングです。

メトロノームに合わせられるようになるために必要なことを詳しくみていきましょう。

原因1:メトロノームと合っているかどうかの判断が甘い

メトロノームに合わせられないケースの一つ目は、本当はズレているのに本人は合っているつもりになってしまっている場合。

「だいたい合ってる」と思っている場合の実態はこんなことになっています↓

ゆっくりのテンポなら大まかに近いところにいるので、ズレに気付けず許容範囲と感じてしまいます。

しかしこの大まかな合い方のままテンポを上げると、ゆっくりのときよりズレは大きく感じられます。

大きなズレになってからやっと合っていないことに気付くので、「いつの間にか半拍ズレていた」という認識になったり、最後までズレに気付けなければ「合ってたはずなのになぜか自分だけ先に終わっちゃった」ということが起きます。

本当に合っているというのはほんの少しの微細なズレもないと疑いなく確信できるくらいにピッタリ合っている状態のこと。

「いつの間にかズレていた」という場合、往々にして最初からズレているのです。

 

どうしたらいい?

メトロノームに合わせた練習を意味のあるものにするために最初に必要なのは、音の細部を聴き取るスキルであるソルフェージュをつけることです。

なぜかというと聴き取り力が低いと、メトロノームという基準と自分の出している音が合っているかどうかの判断が甘くなりがちだから。

それではわずかなズレに気づくことは出来ません。

本当はメトロノームをカチカチとかける前に、まずはソルフェージュのトレーニングを積んで耳の精度を上げておく必要があるのです。

実際の練習では、「だいたい合っている」ではなく「誰が聴いてもズレはないはず、絶対に合っている」と確信できてからテンポを上げましょう。

もしも今吹いているテンポでズレているかどうかわからないなら、もっと思い切ってテンポを落として微細なズレが自分で確実に認識できるくらいゆっくりから始める必要があります。

「だいたい合っている」レベルでどんどんテンポを上げれば、ズレることにどんどん慣れてしまいます。

 

原因2:音がしっかり鳴っていない

次に取り上げるメトロノームに合わない原因は、出している音の核の部分がしっかり鳴っていないこと。

上っ面だけ撫でるように音を出していてしっかり鳴っていない場合、合わせるための打点がはっきりと出てきません。

メトロノームの打点と合わせたいのに、自分の音には打点が無いという状態。

これでは音のどこがメトロノームに合うべきなのかわかりません。

一つ前で挙げた「だいたい合っている」と同じ状態です。

核が鳴らないフワフワ状態でどんなにポイントを狙って発音してみたとしても「なんとなく近いかも」以上には合わないのです。

それでテンポアップをしてもリズムがカッチリ聴こえることはなく、上っ面をつるつる滑っているだけになってしまうでしょう。

どうしたらいい?

どんなに速くて細かい音でも、しっかり全部の音の核を鳴らすだけの発音テクニックとしての呼吸筋のコントロールスキルを上げることが大切です。

呼吸筋のコントロールが上手くなると、鋭い発音でも優しい発音でも音の核が鳴るのでリズム表現は明確になるし、ppでもホールの最後列まで音が届くようになるもの。

そのためにはお腹周りだけでなく骨盤底、脚など、吹き込みに関わる身体についての知識を得て、ただ力むだけでなく使い方を洗練させることが助けになります。

原因3:リズムが崩れている

それでは次に、リズムが崩れているためにメトロノームと合わないケースを考えてみましょう。

例えばこういうリズムがあるとします。

リズムがはっきりと正確に聴こえる演奏と、リズムが崩れた演奏の違いはここまでに見てきた「合っているという基準が甘い」パターンと「打点がはっきりしない」パターンの複合になっていることがほとんどです。

 

 

不具合のある部分を見つけてそれを修正するためには、やはりソルフェージュ力が必要です。

なぜかというと問題のある箇所を通り過ぎるその一瞬で、どの拍がどういう問題を抱えているのかを見極めることが必要だから。

適切なタイミングで核の鳴った音を出す心身のコントロールと、テンポやリズムフィギュアの崩れに気づく聴く力を磨くことが大切です。

 

耳が悪いと練習に時間と手間がかかる

耳の良い先生に「この音にアクセントを付けて、この音はテヌートしてごらん」と言われてやってみると魔法のように正確に滑らかに演奏できる体験をしたことはないでしょうか。

出ている音を正確にモニタリングできるだけの聴く力(ソルフェージュ力)があれば、「この音がほんの少し短いから全体にしわ寄せが出ている」とか「ここの動き出しが遅いから次の発音が甘くなっているな」ということがわかります。

どこをどう修正すればいいのかが具体的にわかっていれば、後はそれを実行するだけ。

なので耳のいい人は短時間の練習でテンポは上がるし、そうでない人にくらべて上達スピードも格段に違います。

こういう聴く力がなければ、問題の起きていそうなエリア全体を何パターンものリズム練習でたくさんの時間を使って大雑把に歪みを矯正するしかありません。

耳の精度が低いために問題を特定できず、広範囲を何度もやらなければならないから手間がかかる。

そういうタイプは練習にやたら時間がかかるのになかなか上達しにくいもの。

耳のいい人に比べて時間と手間を大幅にロスしてしまうのです。

 

レッスンの先生にこそ必要なスキル

このソルフェージュ力は生まれつきの才能など一握りの天才しか持っていないものではなく、地道なトレーニングによって誰にでも何歳からでも身につけることが出来るものです。

実際に当教室では50代60代などからソルフェージュレッスンを始めて、月一回ペースを2年程でリズム感やビート感がきちんと整う方がほとんどです。

メトロノームに合わせるのは初心者でも簡単にできる効果的な練習だと思われがちですが、ただカチカチとメトロノームを鳴らしながら一緒に音を出すだけではなく、きちんと合わせて意味のある練習をするには色々なスキルが必要です。

とはいえ楽器を始めたばかりの初心者に「音を出す前にソルフェージュを」などと勧めるのは現実的ではありません。

吹く動作に夢中になってしまいテンポやメトロノームにまで気が回らない初心者も、ほんの少しリズムが甘く感じられるだけというベテラン奏者も、程度の差こそあれ原因は同じことがほとんどです。

もしもリズム感に問題のある生徒さんを抱えているなら、先生自身のソルフェージュ力が上がると簡単に解決できることは多いものですよ。

ちなみにメトロノームからあえてずらす練習というのも存在するので、メトロノームは合えばいいというわけではないというのも頭の片隅に置いておいていただければと思います。

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  • この記事を書いた人

有吉 尚子

1982年栃木県日光市(旧今市市)生まれ。小学校吹奏楽部にてクラリネットに出会い、高校卒業後19才までアマチュアとして活動する。20才のときに在学していた東京家政大学を中退し音大受験を決意。2003年洗足学園音楽大学入学。在学中から演奏活動を開始。 オーケストラや吹奏楽のほか、CDレコーディング、イベント演奏、テレビドラマBGM、ゲームのサウンドトラック収録など活動の幅を広げ2009年に洗足学園音楽大学大学院を修了。受講料全額助成を受けロシア国立モスクワ音楽院マスタークラスを修了。  及川音楽事務所第21回新人オーディション合格の他、コンクール・オーディション等受賞歴多数。 NHK「歌謡コンサート」、TBSテレビドラマ「オレンジデイズ」、ゲーム「La Corda d'Oro(金色のコルダ)」ほか出演・収録多数。 これまでに出演は1000件以上、レパートリーは500曲以上にのぼる。 レッスンや講座は【熱意あるアマチュア奏者に専門知識を学ぶ場を提供したい!】というコンセプトで行っており、「楽典は読んだことがない」「ソルフェージュって言葉を初めて聞いた」というアマチュア奏者でもゼロから楽しく学べ、確かな耳と演奏力を身につけられると好評を博している。 これまでに延べ1000名以上が受講。発行する楽器練習法メルマガ読者は累計5000名以上。 現在オーケストラやアンサンブルまたソロで演奏活動のほか、レッスンや執筆、コンクール審査などの活動も行っている。 「ザ・クラリネット」(アルソ出版)、吹奏楽・管打楽器に関するニュース・情報サイト「Wind Band  Press」などに記事を寄稿。 著書『音大に行かなかった大人管楽器奏者のための楽器練習大全』(あーと出版)を2023年8月に発売。Amazon「クラシック音楽理論」カテゴリーにて三週間連続ベストセラー第一位を獲得。 BODYCHANCE認定アレクサンダーテクニーク教師。 日本ソルフェージュ研究協議会会員。音楽教室N music salon 主宰。管楽器プレーヤーのためのソルフェージュ教育専門家。クラリネット奏者。

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