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音楽用語のあるある勘違い

今回は勘違いされがちな音楽用語をいくつかご紹介します。

もしかしたら元々の言葉の意味とは違った解釈をしてしまっている用語があるかもしれませんね。

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ニュアンス・揺らぎ関連の用語

まずはニュアンス・揺らぎに関するものから見ていきましょう。

もしかしたら奏法として間違って認識している言葉があるかもしれませんよ。

accent / アクセント

「強く」という意味だと思われがちですが、実際は「目立たせる」「際立たせる」という意味です。

アクセント記号が書いてあるときに、ただ強くしようとして音をぶつけるように吹いてはいないでしょうか。

subit f のようなびっくりさせるための表現ではなく、静かでゆったりしたフレーズの中でフレーズの頂点にするためのようなアクセントが出てきたら、ぶつける発音のアクセントはトンチンカンに聴こえてしまうでしょう。

アクセントというのは大きく強く演奏するものではなく、他から際立つように演奏するもの。

それでは、他から際立たせるために使える変化の要素にはどんなものがあるでしょうか。

もちろん音量変化もそのひとつ。

しかし音量変化にも大きくして際立たせる場合とは反対に、小さくなることで注意を引くという場合もあるでしょう。

また、クレッシェンドとディミネンドの頂点にすることで際立たせる音量変化のアクセントもあります。

さらに音量だけでなくテヌート気味にしたりなど長さにほんの少し隠し味を付けることはアゴーギクと言われ、これもアクセントの一つ。

またピッチを微かに明るくする音程の変化で合奏に埋まらないよう浮き立たせるというワザは、ソロの時など無意識に使っている奏者も多いはず。

とはいえ埋もれないというのはつまり合っていないということなので、大きくズラすとおかしなことになってしまいますから加減は要注意です。

その他アクセントと言っても色んなパターンがあるのに、ただぶつけるような発音にするだけではワンパターン過ぎるでしょう。

場面場面に合わせて様々なバリエーションの表現を使い分けて演奏していきましょう。

 

cédez ・ cedez / セデ

フランス語で「譲る」という意味です。

「ritardandoと同じ」などと言われてしまいがちですが、ritardandoはイタリア語で「遅くなる」という意味。

次のフレーズや引き継ぐパートへの受け渡しで結果としてテンポが緩むことはあっても、単に遅くすることとはニュアンスが違うのです。

 

fermata / フェルマータ

書いてある音価を二倍に伸ばすという意味で捉えられることが多いですが、これは「止まる」という意味です。

元々のイタリア語では「バス停」「停留所」という意味もあり、「音を伸ばす」という意味ではありません。

拍子や拍が止まるので音が出ている時にそれが起きたら結果的に音が伸ばされます。

音のない休符でフェルマータがついていれば、結果的に音のない時間が伸ばされます。

音や拍が充足するまで止まっているということであり、どれくらい止まっているかという長さの規定はありません。

自信がないと「2倍伸ばせばいいや」などの雑な取り扱いになってしまいがちなので、「間」を聴く耳を持って演奏したいものですね。

 

legato / レガート

「結んで」「繋いで」という意味なので、音を切らずに繋げるという意味になります。

管楽器にとってレガートというのは、音の変わる瞬間に弱くなって聴こえないように息圧を保って演奏すること。

結構パワーが必要な動作でありタンギングやスタッカートに比べると一段難しい、ブレスコントロールの精度が高くないと出来ない奏法の一つです。

決して柔らかくふにゃふにゃと演奏することではありません。

音の移り変わりで減衰せずにしっかりと太さを保って演奏しましょう。

 

 

staccato / スタッカート

イタリア語では「離す」という意味で、跳ねるとか弾むなどの意味はありません。

演奏で使う時には「前後の音と切り離して」という意味になります。

レガートで繋がらず切り離すために、結果として音が短くなることはあります。

しかしそれは書いてある音価の半分などの意味ではないのです。

スタッカートにも鋭いスタッカート、長めのスタッカート、柔らかみのあるスタッカート、などバリエーションは色々あります。

単純に半分の音価にして欲しいなら、作曲家はそのように書くのではないでしょうか。

 

 

テンポ関連の用語

次にテンポ表記に関連する用語を見ていきましょう。

メトロノーム記号の代わりとして数字で捉えるのとはイメージが変わるかもしれません。

 

adagio / アダージョ、largo / ラルゴ

adagioは「くつろいで」、largoは「幅広い・ゆったりとした・気前の良い・偏狭でない」という意味です。

メトロノームで考えると似たようなゆっくりテンポをイメージするかもしれませんが、「くつろいだ」と「幅広い」では違うものを想像するでしょう。

 

「くつろいだ」のイメージ例↓

 

「幅広い」のイメージ例↓

そういったニュアンスを無視して「ゆっくりなテンポ」とまとめてしまうのは少々乱暴かもしれません。

 

andante / アンダンテ

歩くような速さでという意味。

この歩くようにというのは、果たしてだれがどこに向かってどのように歩くテンポなのでしょうか。

赤ちゃんがよたよた歩くテンポ?

子供が駆け出しそうになりながら歩くテンポ?

疲れた大人が家へ向かって歩くテンポ?

実はアンダンテは昔のヨーロッパのロングドレスを着た貴族の女性が食後の暇潰し・腹ごなし(笑)にお庭をお散歩する足取り、だそうです。

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演奏会で着る方にはあるあるでしょうがロングドレスはうっかり早足になれば裾を踏んで転びます。

もしそういう衣裳で走りたければ手で裾を持ち上げなければなりません。

そういう機能的ではない衣服が普段着だった時代のテンポ指定。

現代の日本人が通勤で職場に向かい地下鉄の乗り換えを急ぐための早足は、きっと古典時代の作曲家が意図するアンダンテではないでしょう。

 

コラム:ウインナーワルツとドレスの関係

ドレスの話題に関連して小話を一つ。

ウインナーワルツ(ウイーンのワルツ)は3拍子ですが、2拍目が少しだけ前にずれて長めに演奏されることで知られています。

なぜでしょうか。

そもそもワルツは踊るための曲。

ステップの合間にターンをすると、ドレスがフワッと大きく翻ります。

そしてドレスが翻りきって、次のステップに移れる状態になるまでには時間がかかります。

この間が、やや早めにずらされる2拍目なのだそう。

美術や彫刻などの文化とは音楽も共通点があるというのは割りと広く認識されてますが、服飾の歴史とも音楽は関係しています。

興味深いですね!

 

 

moderato / モデラート

moderatoは音楽辞典にあるのは「中くらいの速さで」。

中くらいというのは実にあやふやな言葉ですが、イタリア語では「控え目な・無茶しない・抑えた」となってます。

決してぼんやりとした中途半端な速さという意味ではないのです。

 

allegro / アレグロ

音楽用語の「快速テンポ」という意味だけではなく、イタリア語では「陽気な・快活な」という意味。

陽気で快活なテンポだと知っていたら、速いからとただ単に急ぐというより楽しげなワクワク感を伴ったイメージになるかもしれません。

 

schnelle / シュネル

schnelleはドイツ語で「速い」という意味の他に「急流・早瀬」という意味もあります。

アレグロの陽気で快活な速さとはニュアンスが全く異なるでしょう。

 

まとめ:原語の辞書で調べよう

新しい楽譜を手にして、知らないことが書いてあったらとりあえず辞書で調べるでしょう。

そのときには音楽辞典ではなく普通のイタリア語やフランス語など原語の辞典を使うのをオススメしています。

現代ではweb検索をすれば簡単に言葉は調べられますが、やはり音楽用語としてより元々の言葉の意味を正しく知っておくのは大切です。

そのほうがニュアンスやイメージを掴みやすくなりますよ!

また、意外に知っていると思っていた言葉も勘違いによってニュアンスがあやふやだったり、トンチンカンな表現に繋がってしまっていることもあるものです。

改めて調べてみようと思わないような楽語も、実は違った意味だったりすることは少なくありません。

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  • この記事を書いた人

有吉 尚子

1982年栃木県日光市(旧今市市)生まれ。小学校吹奏楽部にてクラリネットに出会い、高校卒業後19才までアマチュアとして活動する。20才のときに在学していた東京家政大学を中退し音大受験を決意。2003年洗足学園音楽大学入学。在学中から演奏活動を開始。 オーケストラや吹奏楽のほか、CDレコーディング、イベント演奏、テレビドラマBGM、ゲームのサウンドトラック収録など活動の幅を広げ2009年に洗足学園音楽大学大学院を修了。受講料全額助成を受けロシア国立モスクワ音楽院マスタークラスを修了。  及川音楽事務所第21回新人オーディション合格の他、コンクール・オーディション等受賞歴多数。 NHK「歌謡コンサート」、TBSテレビドラマ「オレンジデイズ」、ゲーム「La Corda d'Oro(金色のコルダ)」ほか出演・収録多数。 これまでに出演は1000件以上、レパートリーは500曲以上にのぼる。 レッスンや講座は【熱意あるアマチュア奏者に専門知識を学ぶ場を提供したい!】というコンセプトで行っており、「楽典は読んだことがない」「ソルフェージュって言葉を初めて聞いた」というアマチュア奏者でもゼロから楽しく学べ、確かな耳と演奏力を身につけられると好評を博している。 これまでに延べ1000名以上が受講。発行する楽器練習法メルマガ読者は累計5000名以上。 現在オーケストラやアンサンブルまたソロで演奏活動のほか、レッスンや執筆、コンクール審査などの活動も行っている。 「ザ・クラリネット」(アルソ出版)、吹奏楽・管打楽器に関するニュース・情報サイト「Wind Band  Press」などに記事を寄稿。 著書『音大に行かなかった大人管楽器奏者のための楽器練習大全』(あーと出版)を2023年8月に発売。Amazon「クラシック音楽理論」カテゴリーにて三週間連続ベストセラー第一位を獲得。 BODYCHANCE認定アレクサンダーテクニーク教師。 日本ソルフェージュ研究協議会会員。音楽教室N music salon 主宰。管楽器プレーヤーのためのソルフェージュ教育専門家。クラリネット奏者。

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