アレクサンダーテクニーク 練習 身体の仕組み

腹筋と呼吸の仕組みと勘違い

演奏のときには意識した方がいいと思われている腹筋について、わたしたちは意外に多くの勘違いや思い込みを抱えているものです。

今回は呼吸と腹筋に関わる意外に知られていないあれこれを解説しましょう。

 

お腹だけを膨らますブレス

昔はよく息を吸うときのことについて「お腹にたくさん吸いなさい」という指導がありました。

30代以降の方は小中学生のときに吹奏楽のレッスンなどでよく耳にしたのではないでしょうか。

でも身体の構造として実際のところ、お腹に息は吸えません。

呼吸で空気が入るのは肺です。

お腹のあたりには内臓が詰まっていて、肺に空気が入るときに下がった横隔膜に内臓は下向きに圧迫されます。

居場所をなくした内臓がお腹や背中やわき腹や骨盤底に向かって動くので、結果的にお腹も膨らんだように見えます。

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でも実際はお腹には空気は入っていません。

お腹(胃や腸)に入っている空気はガスです。(オナラとゲップ)

演奏に使うためにコントロールして吐くことはできません。(試そうとしないで無理だから)

そしてもうひとつ。

お腹の周りにお腹をふくらます筋肉は存在しません。

「お腹を膨らませて!」と言われたときにお腹周りで能動的にできることは何もないのです。

お腹周りでは内臓が押されて受動的に膨らむのを邪魔しないことができるだけ。

お腹の正面側を張り出して膨らませることができたとしても、そのときにわき腹や背中側はどうなっているでしょう。

正面だけを突き出すためにはその他の部分は固めて動かないようにしているのではないでしょうか。

胴体全体が膨らむのがブレスの動きですから、それを妨げる意図はブレスの深さや質も制限してしまいます。

お腹を膨らませることがブレスを引き起こすという勘違い、気を付けたいものですね!

 

息を吸いたいのに実は吐いてる

ブレスについて特に多い勘違い、それは吹くことよりも吸い込むことに関してが多いのです。

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当然、多くの奏者は吐くとき(吹くとき)にかける圧力についてはよく考えます。

吹奏楽でよく聞くワード、「お腹の支え」などですね。

では吸うときってどうでしょう。

ノドとか舌で何かするよりも、まず吸うときにまず一番必要なのは「吐くのをやめる」こと。

何をバカなことをと思われるかもしれませんが、吐きながら吸ってる人は意外にもかなり多いのです。

どういうことかというと、吐くときに頑張っている筋肉は吸うときは緊張をやめて弛む必要があるということ。

吐くときに頑張っている筋肉というのはお腹を回りにあるいくつかの筋肉です。

これが息を送り出す方向に頑張ったままだと、当然吸い込める量は減ります。

吸い込む動きに対立して邪魔をしてしまうのですね。

「お腹の支えをキープしよう」なんていう意識が強いと、息を吸うときにもうっかりお腹を固めてブレスの動作を邪魔しているということがよくあります。

まずは吐く時の筋肉の働きを解除、そうすると人間の身体は生きてる限り空気を吸い込む機能が勝手に働きます。

この自然なリズムは寝そべって呼吸してみると簡単に確認できます。

寝そべって演奏するわけではないので立った時とは状況が違いますが。

効率的に息を吸いたければまずは息を吐くのをやめること、試してみてくださいね!

 

お腹の支えを説明できますか?

吹奏楽器では音をまっすぐに保つためには息の支えが大事とよく言われます。

でも息の支えというのは、つまり具体的に言うと何のことなのでしょうか。

「支え」という言葉から連想するのは安定した揺るがない何かでしょうか。

動かない、ぶれないなどの言葉も連想できるかもしれません。

お腹をしっかりドンと安定させて吹くなんてイメージもあるでしょうか。

それでは、安定したお腹って果たしてどんな状態だと思いますか?

膨らまして張り出すのは疲れるだけで実際の演奏のためには意味がありません。

安定してるというのはずっと膨らんでいることではないのです。

それに筋肉をカチカチに固めることでもありません。

よく見られるのが、安定させよう支えようと思って腹筋をこわばらせて硬くしているパターン。

お腹を押してもびくともしないという状態ですね。

筋肉をこわばらせていると疲れますから、頑張ってる感・しっかり支えてる感があり、ちゃんとやってる気がして安心するでしょう。

だけれど、まっすぐ音をのばし続けたいなら均等に同じ量の息を吐き続ける必要があります。

そして吐く息をコントロールするのは胴体の色々な筋肉群です。(腹筋だけではありません!)

筋肉は固まっていては働けませんから、同じ速度で息を送り続けるには動き続けなければなりません。

支えるというのはつまりは一定の形を保つことではなく、一定の速度で息が出ていくように力加減の調整をしながらコントロールし続けること。

動き続けることなのです。

言葉のイメージで目的に沿わないことをイメージさせてしまう、気をつけたいものですね。

 

腹筋運動は意味がない!

息を一定に吐き続けるために筋肉を動かし使い続ける「お腹の支え」。

その吹き込みに使える具体的な筋肉について見てみましょう。

昔の吹奏楽指導ではよく腹筋運動を1日100回!なんてことがトレーニングとして行われていたものです。(懐かしいですね)

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この仰向けから起き上がるいわゆる腹筋運動で、最初の身体を少し持ち上げるのに使われるのが、鍛えるとシックスパックと言われたりしてムキムキになるお腹表面の筋肉(腹直筋)です。

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この腹直筋、演奏時はものすごくフォルテのアクセントで一瞬だけ吹き込む、という場合以外は呼吸することに関してあまり大きな助けになるわけではありません。

そして実際に身体を起こすのに作用するのは大腰筋という脚の筋肉。

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つまり起き上がりの腹筋運動で主に鍛えられるのは呼吸にはほとんど関係のないお辞儀をするための脚の筋肉です。

起き上がりの腹筋運動は体力づくりという面では良いのかもしれませんが、演奏を向上させるためとしては無意味。

せっかく確保した練習時間を見当外れな演奏に関係のない体操に使うのは勿体無いと思います。

(演奏に関係なくダイエットなどの意図でやっているのなら良いでしょうが)

それよりも吹奏楽器演奏の吹き込みを助けるのは、お腹まわり全体の筋肉。

具体的にはお腹まわりをぐるっと背中も含め、胴体の底部も含め、全体を囲むようについている何層かの筋肉(腹横筋・内腹斜筋・外腹斜筋・骨盤底筋など)です。

この筋肉群が胴体全体を絞る方向に狭まっていくことで内臓を上に押し上げ、その結果として横隔膜が上に上がり、結果的に肺が圧迫されて内部の空気が外に出ていくのが、息を吐くという動作。

お腹の正面にある腹直筋だけではこの全体を絞る動きはできないのです。

 

腹筋より鳴りを左右する筋肉

腹筋と言わる筋肉群以外にも吹き込みを強力に助ける筋肉があるのをご存知ですか?

それは「骨盤底筋」という筋肉。

豊かな鳴りに一番役立つのは実は腹筋よりもこの筋肉なのです。

骨盤底筋は骨盤の中、胴体の一番底にあります。

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息を吸うときに内臓が横隔膜などに押され下に降りてきた時に、この骨盤底筋に圧力がかかります。

そして逆に息を吹き込むときは内臓を上に押し返す働きも。

たとえば胴体を歯みがき粉のチューブとしてイメージしてみましょう。

一番下から順に押して行けば全体がムダなく全部の歯みがき粉(息)が使えますが、底の部分(骨盤底筋)より先に真ん中(腹筋)を押したら底の方にちょっと余りますよね。

腹筋は上と下の両方向に内臓を押す圧力を加えるので、胴体の底の筋肉が働く前にお腹まわりの筋肉が働くと骨盤底筋が内臓を上に押し上げるのを邪魔します。

お腹まわりの筋肉が邪魔する前に底の筋肉が働いていれば、すでに内臓を上へ押す力が働いているので、お腹まわりの筋肉はそれをさらに助けます。

そしてこの吹き込み筋を鍛えるには、実際に楽器を吹くことが一番効果的。

腹筋運動ではこの筋肉の働きは鍛えることができません。

頑張ってるのにどうも鳴りがイマイチという場合、この骨盤底筋がうまく使えていない可能性は大きいもの。

響きに深みが出て鳴りも良くなる筋肉、せっかく使えるはずの力をムダにするなんてもったいないですね。

 

発音準備のつもりの呼吸の邪魔

管楽器の発音する瞬間の動作でよく見られる動きに、息を吸って一旦止めてお腹を固めてから吹き始めるというものがあります。

これ、よく見かけるのでつい何気なく見過ごしてしまいがちですが、実はすごくもったいないことをしているのです。

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どういうことかというと、お腹を固めて吹き始める準備をしたつもりのこの動作は吹き込みに使える動きを制限してしまうものだから。

筋肉は働くときには縮みます。

すでに固まるために頑張ってる筋肉というのはすでに縮んでいるということ。

息を吐くのは弛んでる胴体の筋肉に新しく縮んでもらう動き。

吹き始めるということは、弛んでいる筋肉が新しく収縮しはじめることです。

初めから縮んでる状態では、本当は息の吐き出しのために働かせたい呼気に使える筋肉のパワーの一部がすでに無意味に縮むことに使われてしまってるというわけ。

ブレスをするときには弛んだ状態から新たに気合を入れ直したりせず、そこからそのまま吹き始めて良いのですよ。

わざわざ一度固めて筋肉の動きを制限してから吹きはじめるなんて全くもったいない限り!

あなたはそんな勿体無いことをしてはいないでしょうか?

 

まとめ

ひとことで腹筋と言っても付いている位置から形、働き方、動きの特徴など色々あるものです。

大雑把に「腹筋を意識する」と思っていても、実際にどこで何を引き起こしたいのかが明確でないと逆効果になることもたくさんあります。

そんな場合に現実的に自分の身体の構造を知って快適な動き方を選ぶ、それができるようになるためのトレーニングがアレクサンダーテクニーク。

解剖学や理学療法を学ぶのはハードルが高いと感じる方には演奏に関わる部分だけを体験すること可能です。

知っておくと演奏だけでなく日常動作なども快適になっていって便利なのでオススメですよ。

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  • この記事を書いた人

有吉 尚子

1982年栃木県日光市(旧今市市)生まれ。小学校吹奏楽部にてクラリネットに出会い、高校卒業後19才までアマチュアとして活動する。20才のときに在学していた東京家政大学を中退し音大受験を決意。2003年洗足学園音楽大学入学。在学中から演奏活動を開始。 オーケストラや吹奏楽のほか、CDレコーディング、イベント演奏、テレビドラマBGM、ゲームのサウンドトラック収録など活動の幅を広げ2009年に洗足学園音楽大学大学院を修了。受講料全額助成を受けロシア国立モスクワ音楽院マスタークラスを修了。  及川音楽事務所第21回新人オーディション合格の他、コンクール・オーディション等受賞歴多数。 NHK「歌謡コンサート」、TBSテレビドラマ「オレンジデイズ」、ゲーム「La Corda d'Oro(金色のコルダ)」ほか出演・収録多数。 これまでに出演は1000件以上、レパートリーは500曲以上にのぼる。 レッスンや講座は【熱意あるアマチュア奏者に専門知識を学ぶ場を提供したい!】というコンセプトで行っており、「楽典は読んだことがない」「ソルフェージュって言葉を初めて聞いた」というアマチュア奏者でもゼロから楽しく学べ、確かな耳と演奏力を身につけられると好評を博している。 これまでに延べ1000名以上が受講。発行する楽器練習法メルマガ読者は累計5000名以上。 現在オーケストラやアンサンブルまたソロで演奏活動のほか、レッスンや執筆、コンクール審査などの活動も行っている。 「ザ・クラリネット」(アルソ出版)、吹奏楽・管打楽器に関するニュース・情報サイト「Wind Band  Press」などに記事を寄稿。 著書『音大に行かなかった大人管楽器奏者のための楽器練習大全』(あーと出版)を2023年8月に発売。Amazon「クラシック音楽理論」カテゴリーにて三週間連続ベストセラー第一位を獲得。 BODYCHANCE認定アレクサンダーテクニーク教師。 日本ソルフェージュ研究協議会会員。音楽教室N music salon 主宰。管楽器プレーヤーのためのソルフェージュ教育専門家。クラリネット奏者。

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