アレクサンダーテクニーク 思考と心 本番 練習 身体の仕組み

緊張はしていい!

いい演奏のために「緊張しないように」「リラックスしたほうが良い」など心がけるプレーヤーは多いでしょう。

でも実はリラックス状態は必ずしもいい演奏に繋がるわけではなく、緊張した方がいい演奏になることも多いのです。

どういうことなのか詳しく見ていきましょう。

 

アドレナリンは味方です

本番や初めての曲のリハーサルなど、演奏する上で緊張する場面は多々あるでしょう。

そんなとき「緊張をなくそう!」「落ち着かなくちゃ」と思ってはいないでしょうか。

緊張を引き起こすアドレナリンは役に立たないものではなく、とっさの反応スピードを上げたりパフォーマンスの質を高める演奏のための大切な要素。

とはいえ、そわそわしながらでは演奏に集中しにくいですよね。

そんなときは試しに「自分は何のためにここにいて、今ここで本当にしたいことは何か」を考えてみましょう。

有り余るエネルギーを感じソワソワして落ち着かない気分を抱えたままでも、どんな風に演奏するかは選べます。

それには

・自分が本当は何をしたいのかをはっきりさせること

・それに繋がる動作を実際に行うこと

このふたつ。

これができるとエネルギーが変な方向に行って暴発したりせず、有効に使うことができるのです。

緊張をなくすというのはせっかく使えるエネルギーを放棄することになるのでもったいない。

そんなことに不毛な努力をするよりも、本当にやりたいことに意識をフォーカスするほうがいい演奏をするためには有利に働くかもしれませんよ!

 

自意識過剰が緊張を生む

合奏の中でちょっとだけ出てくる自分のソロのフレーズ、近づいてくると「きたきた!ヤバいもうすぐだ!」なんて思ってしまうかもしれません。

ずっと合奏の中で音を出していてちょっと隠れていられると安心していたのに、急に目立つフレーズが来てドキドキする、それは自然なことです。

でもそんな風に自分のソロを重大視しているのは、もしかしたら自分だけかもしれません。

たとえばあなたがお客さんとして客席に座っているとき、誰かのソロだけを注意して聴いて間違えるかどうかチェックなんて別にしていないでしょう。

はっきり言ってお客さんとしては個人のソロの出来や不出来なんて全然興味がないもの。

オーケストラ全体の流れやバランスや絡み合いや色合いやニュアンスの変化など作品の魅力を聴いていることがほとんど。(家族が出演している場合などの例外はありますが)

そう思うと「きたきた!」なんて一人でドキドキしてるのがバカらしくなってこないでしょうか。

あなたのソロは全体の中でどんな役割の部分なのでしょう。

作品全体を通した中の一番の見せ場なのでしょうか。

ちょっとした色合い付けの役割なのでしょうか。

それとも場面転換の繋ぎですか?

自分としてはドキドキする場面だとしても他の人のソロやtuttiと同じように聴かれていて、本当はそのソロ部分だけ注目を集めてるわけではありません。

アナリーゼの視点を持って音楽や作品を大きな視野で見れば、無駄な緊張をすることも減っていくかもしれませんね。

 

緊張してきたら

それでもやはり「ドキドキしているな」「いつもより汗が出てきているな」「ライトが眩しいな」なんてことに気付いて緊張を感じたときにしたいのは、緊張している自分を認めること。

「心拍数が上がっている」

「汗をかいている」

「ライトを眩しく感じている」

というのはその時点でもうすでに起きていることです。

それに気付かない振りをしたり起きてはならないことだと否定したりしても、ドキドキがおさまったり汗が引っ込んだりライトが暗くなったりするわけではありません。

それどころかそういう自己否定や現状否定の思考は状況の正確な把握を妨げてしまいます。

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落ち着こうとするからこそ大失敗をする

ちゃんと向き合ったら何かしらできる対策があるかもしれないのに、緊張しているという事実に向き合わずに見ない振りをしていれば何も対応できません。

思考として何をすればいいかあやふやになると、思考によって動かされている身体は動きようがなくなって固まってしまい変なミスに繋がることも。

自己否定や現状否定をするだけだと、代わりに何をしたいのかという代替プランがはっきりせず身体は動きを止めて固まってしまうのです。

まず最初に今ある状況はどんなものか、その中で具体的に自分にできることは何なのかを考えるのは演奏中に限らず色んなことに応用できることですね。

 

リラックスはしない方がいい

緊張を避けようと思っているとつい「練習のときのようにリラックスして」などと考えてしまいがちでしょう。

でもそもそも練習のときは本当にリラックスしていて良いのでしょうか?

練習というのは動作や思考の習慣づけ、という側面もあるものです。

誰でもとっさのときには最もたくさん経験している慣れた動作が出てきやすいもの。

そのとっさの反応として混乱せずに意図した動作をするためには、事前にたくさん繰り返し反復しておいてやりたい動きをいざという時のために慣れたものにしておきます。

それが練習のひとつの意味。

ということは、練習のときにリラックスして気楽に吹く習慣がついていたら本番ではどうなるでしょうか。

 

手抜き練習をしていると

譜読みだから練習だからって手を抜いた吹き方をしておいていざ本番となったときに「練習の通りに」なんて思っていたら、本番だってもちろん気の抜けた緊張感のない演奏になるのは当然です。

それにもしかしたら気楽でいられる場面ではない大切な本番でやるべきことが何も準備されていない、頭が真っ白・・!なんていう恐ろしいことにだってなるかもしれません。

そもそもわざわざ時間を労力と時にはお金をかけてコンサートに出かけるのに、ただリラックスして自分が快適さを味わっているだけの人のパフォーマンスなんて全然観たくありませんよね。

緊張や興奮をコントロールして表現したいことを伝えようと本気で向き合っている姿がお客さんの心に響くパフォーマンスになるのです。

練習のときにも譜読みのときにも本番に向き合うときのように本気で緊張感を持って音を出す、大切なことですね。

 

本気で練習する効果

最初から本気で音を出しつつ練習を重ねた曲は気軽に手を抜いてさらってきた曲よりもずっと深く理解が進むものですし、「こうやってみようかな?」というアイデアもたくさん湧いてくるもの。

そして本気で吹くことをあなたの当たり前にしておく、それも大切な本番で良いパフォーマンスをするために必要な準備プロセスです。

せっかく時間と場所を確保して音を出す環境を整えたなら中途半端に生ぬるく吹いて終わり、ではもったいなさすぎます。

どうせなら思いっきり全力で取り組む贅沢な時間を積み重ねた方が良いことがたくさんあるものですね!

 

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  • この記事を書いた人

有吉 尚子

1982年栃木県日光市(旧今市市)生まれ。小学校吹奏楽部にてクラリネットに出会い、高校卒業後19才までアマチュアとして活動する。20才のときに在学していた東京家政大学を中退し音大受験を決意。2003年洗足学園音楽大学入学。在学中から演奏活動を開始。 オーケストラや吹奏楽のほか、CDレコーディング、イベント演奏、テレビドラマBGM、ゲームのサウンドトラック収録など活動の幅を広げ2009年に洗足学園音楽大学大学院を修了。受講料全額助成を受けロシア国立モスクワ音楽院マスタークラスを修了。  及川音楽事務所第21回新人オーディション合格の他、コンクール・オーディション等受賞歴多数。 NHK「歌謡コンサート」、TBSテレビドラマ「オレンジデイズ」、ゲーム「La Corda d'Oro(金色のコルダ)」ほか出演・収録多数。 これまでに出演は1000件以上、レパートリーは500曲以上にのぼる。 レッスンや講座は【熱意あるアマチュア奏者に専門知識を学ぶ場を提供したい!】というコンセプトで行っており、「楽典は読んだことがない」「ソルフェージュって言葉を初めて聞いた」というアマチュア奏者でもゼロから楽しく学べ、確かな耳と演奏力を身につけられると好評を博している。 これまでに延べ1000名以上が受講。発行する楽器練習法メルマガ読者は累計5000名以上。 現在オーケストラやアンサンブルまたソロで演奏活動のほか、レッスンや執筆、コンクール審査などの活動も行っている。 「ザ・クラリネット」(アルソ出版)、吹奏楽・管打楽器に関するニュース・情報サイト「Wind Band  Press」などに記事を寄稿。 著書『音大に行かなかった大人管楽器奏者のための楽器練習大全』(あーと出版)を2023年8月に発売。Amazon「クラシック音楽理論」カテゴリーにて三週間連続ベストセラー第一位を獲得。 BODYCHANCE認定アレクサンダーテクニーク教師。 日本ソルフェージュ研究協議会会員。音楽教室N music salon 主宰。管楽器プレーヤーのためのソルフェージュ教育専門家。クラリネット奏者。

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