年末年始によくテレビで流れる格付け系の番組。
何億もするバイオリンと初心者用バイオリンの音の違いは楽器奏者ならきっと誰もが気になっているのではないでしょうか。
今回は音楽的な耳の訓練法であるソルフェージュの観点から、高級楽器がどちらなのか正解を聞き分けるためのポイントを書いてみたいと思います。
リズムや音程は関係ない
よく勘違いされますが、「高級楽器ならリズムや音程が取りやすいはず」ということはありません。
とんでもなく音程の調整がしにくいとか、楽器に不具合があって発音に差し障りがあるほど吹きにくいという場合を除いて楽器の性能はあまり関係のない部分です。
人間ですから同じ奏者でも毎回微細な演奏の違いが生まれるのは自然なことで、それは楽器によって生まれるものとは別問題であることは知っておくと良いでしょう。
心地良いかどうかも当てにならない
音を聴いて心地よいと感じるかどうかも判断基準にはなりにくいもの。
「心地よい響き」というのは会場や場面によって変わるもの。
2000人も入る大きなホールで一番後ろの席まで届く豊かな響きを出す場合と、目の前にマイクがあったり小さな子供がいる場面での演奏とは全然鳴らし方は変えるものなのです。
目の前にマイクがあるのに2000人のホールで美しく響く音を出しては雑音が乗ってしまったりうるさすぎて心地よくありません。
逆に2000人のホールでマイク用の音の出し方では一番後ろの席のお客さんには何も聞こえないでしょう。
これはどちらが良いか悪いかではなく、場面に適した音の出し方かどうかというお話です。
同じように楽器にも遠鳴りするものとマイク乗りの良いものとあります。
高級楽器がどんな場面で使うことを想定して作られた楽器なのか、テレビでの収録環境が音響的にどうなのかも考え合わせたいところです。
扱いやすいのは入門楽器
また、操作性が優れているかどうかという点では、初心者用の方が反応が良いということもあるのです。
高級楽器では演奏者がどれだけコントロールスキルを持っているか、表現したいことをたくさん持っているかということで楽器の反応が違ってくるもの。
たくさんのトレーニングをしてきて豊かな音楽性を持った人が快適に演奏できる楽器は、初心者では充分鳴らせなかったり扱いきれなくて持て余してしまうこともあります。
どんなに訓練されていない奏法でもそれなりに良い音が出るように作られているのが初心者用の楽器なので、扱いやすさでは高級楽器かどうかの判断はできません。
判断基準は倍音がたくさんかどうか
それでは何を基準に聞き分ければいいかというと、倍音をたくさん含んだ響きが出せるのかどうかです。
高級楽器が作られた当時、マイクが目の前にある環境が演奏のメインだったとは考えられません。
当然ホールなりサロンなり音響環境の良い場所で演奏されることが想定されていたでしょう。
ということは、画面越しスピーカー越しに軽やか滑らかで耳触りのいい音のする楽器は豊かな表現力やダイナミクスレンジではなく、扱いやすさを求めて作られた入門用かもしれないということ。
高級楽器はたくさんの倍音を含んで豊かに鳴ることができるので、もしかしたらスピーカー越しで聴くと荒々しいような印象にさえ感じられるかもしれません。
まとめ
倍音の聴き方などはソルフェージュという演奏のための耳を育てるトレーニングを通じて養われるもので、聴力とは関係なく何歳からでも身につけることのできる「どこをどんな視点で聴けば良いか」という注意力の部分です。
聴き方のポイントさえ知っていたら「音楽的な耳の良い人」になれるのですね。
ご家族やご友人とテレビを見ながら盛り上がるきっかけにしていただけたら幸いです。
2本のクラリネットを聴き比べながら解説している動画はこちら
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