楽器演奏で使う力の強さを決める時に筋肉の感覚を頼りにしていると、後々脱力することができなくなったり自分で使う力をコントロールできない症状が出たり、負荷をかけすぎたための怪我につながったりという可能性があるもの。
今回は筋感覚に頼りたくなる原因と解決策を考えてみました。
筋感覚を当てにした奏法
金管楽器のマウスピースのプレスやリード楽器のアゴの噛み具合、キーや弦を指で押さえる力加減、また楽器を構えた時の背中の反り具合など、楽器演奏をしていれば感覚的なフィードバックに頼ることはよくあるでしょう。
実際、最初に楽器を持つ時は「大体これくらいの強さで圧力をかければいいのね」など感覚を頼りにして覚えることがほとんど。
とても良くあることで、それ自体は全く悪いことではありません。
では、その感覚ってどれくらいアテになるのでしょうか。
初めのうちはそういう筋肉の感覚は頼りになりますが、ずっとそれに頼るというのは奏法のバランスを崩してしまう危険もあるのです。
それってなぜでしょうか。
筋肉は強く鈍くなる
それは、筋肉は働けば働くほど強くなるからです。
「これくらいの強さで圧力をかければいいはず!」と思っていると、同じ圧力をかけている感じを得るためにはどんどん使う力を強くしていかなければ筋感覚としてのフィードバックは返ってこないのです。
続けていってその動作に慣れていくとだんだん「あんまり力が入ってない感じがする」という感覚になっていくわけです。
さらにもうひとつ、感覚にずっと頼れない理由があります。
それは、痛みや圧力としての感覚は感じ続ければだんだん鈍くなるということ。
初めにこれくらいだな、と思って覚えた圧迫感や痛みは、慣れてくるとあまり感じなくなってきます。
初めは重かった荷物が何日かするとだんだんなんともなく持ち歩けるようになるのと同じこと。
圧迫感や痛みを頼りに奏法を考えていると、その痛みや圧迫感を感じられるようにどんどん強く刺激を加える必要が出てきてしまいます。
例えばリード楽器でどんどん重い仕掛けにしていってしまうような泥沼はこんな理由ではまるのですね。
奏法をコントロールする指針は
筋感覚や痛みや圧迫感はずっと使える奏法のフィードバックにはなりえない、それなら何を頼りに奏法をコントロールしたら良いのでしょうか。
私たちが演奏技術を磨くのは、当然ながら音楽のためです。
出ている音がどうなってるか、ということを判断の基準にするのが一番おすすめです。
どんな音が出したいのかがまだ明確でない始めたばかりの初心者は、つい「正しい奏法」を目指して筋感覚に頼ってしまいがちです。
自分で音を聴いて理想とどう違うのか判断できないような場合には、どの方向へ進みたいのかという望みを引き出しつつ、圧力や吹き込みの重さを求める迷宮に入り込んでしまわないようにサポートしてくれる客観的で音楽的な耳を持った人の存在が頼りになるもの。
動作そのもののためでなく音楽のために奏法のコントロールが必要なんだということを忘れないでいたいものです。
どんな音がいい音?
また音を指針にと言っても色々注意するポイントがあります。
ただ単に「キレイな音が出た」「音量が増えた」「高い音が出せた」ということだけでは音楽をするのには用が足りません。
表情豊かな音楽表現をするためには大きな音も小さな音もきれいな音も激しい音も必要です。
吹き込みの重い仕掛けで大きな音にはなったけれど、小さい音はかすれてしまって全く出ない・・・そんなことになるのであればその奏法にこだわる意味がありません。
音を聴いて奏法を判断するときに、ひとつの音がきれいに出るかどうかではなく、どんな音域でどんな表現でも柔軟にできるかどうか、という自分の音の聴き方のポイントも気にしておきたいものですね。