レッスンを受けたり本やブログなどから新しい奏法を知ったのに、いつの間にか気がついたら元通りのやり方に戻ってしまっている。
なぜせっかく新しいより良いやり方を知り、それをやろうとしてるのに定着せず上手くいかないのか、今回はそのあたりを考えてみたいと思います。
もくじ
新しい奏法が定着しない理由
せっかく知った良さそうな奏法が定着しないのには、
・新しい奏法がまだ不慣れで無意識の習慣的な動きになっていない
などいくつかの理由が考えられます。
順番に見ていきましょう。
新しい奏法に慣れていない
ひとつめの「新しい奏法がまだ不慣れで無意識の習慣的な動きになっていない」という原因については、はっきり言って繰り返し練習をするしかありません。
とはいえ習慣を定着させるには色々な方法があり、自分に合ったやり方で慣れていく必要があります。
詳しくはこちらの記事で書いているのでどうぞ。
「正しい感じ」に騙される
次に「新しいやり方よりも古い習慣の方が正しい感じがしている」ということについて見ていきましょう。
今まで続けてきてそれなりに上手くいった経験もある、そういう方法ならとっさのときについその奏法に頼ってしまうのも無理のないことです。
とはいえ新しいやり方に変えたいと思ったのには理由があるはず。
何かしら古いやり方では足りない部分があったり、逆効果になっていたり。
何も問題が無いなら今までのやり方を続ければいいのですから、新しい方法にするのには理由があるのでしょう。
それなのに古いやり方の方が安心だったり正しい感じがするのは「正しい」と感じる自分の基準がズレているから。
でも実はこれってありがちなことなのです。
なぜ本当は正しくないはずなのに「正しい感じ」がするようになってしまうのでしょうか。
正しいは安心
どういうことかというと、わたしたち人間は今までの経験の中で成功したことや安心だったことなど慣れてることを「正しいこと」として感じるから。
今のあなたの「正しい」と感じる価値基準を作っているのは過去の経験です。
そして新しい奏法に変えようと試行錯誤しているときに、慣れていて安心な感じがすることはいまは直したいと思っているはずの過去の習慣的な動作をしたときの感覚であることが多いもの。
そして慣れてない新しいことは「間違ってる」と感じられやすいものなのです。
正しい=慣れている
演奏に限らず何においても新しい方法は得てして不慣れで変な「間違った感じ」がするもの。
今まで続けてきて「正しい」と感じてきた方法と、行い心地の違うことが多いです。
ちっとも変ではなく正しい感じがするということは、それは古いやり方に戻ってしまっているという証拠とも言えます。
「正しいと感じることは間違ってる」といわれると屁理屈のようですが、感覚的に感じることと現実的に起きていることにはズレがあるということなのです。
自分で習慣を塗り替えるのは難しい
ということで、新しい奏法を知ったからもうできる!というわけではありません。
本当にやりたいことに繋がる動きは慣れていないので自分では間違って感じられることがほとんどなので、感覚を頼りにひとりで「正しい」状態を再現するのは難しいものです。
だからいつの間にか元の奏法に戻ってしまうという方も大丈夫ですよ。
あなたがダメだから新しい奏法に出来ないのではなく、太古の昔からの身の安全を守りたいという人間の感覚がそうさせる仕組みになっているのですから。
だからこそ何を信頼したらいいかはっきりさせて望む方に進みたい方のために、レッスンというものがあるのです。
「自分でなんとかしよう」は「今まで通りにやろう」と同じになりがちだということ、頭の片隅に置いておくといいかも知れませんね。
クセが抜けない
次に新しい奏法になかなか馴染めないもうひとつの理由である「古いやり方をやめられない」ということを考えてみましょう。
例えば背中を反る動きを習慣的にしてしまっていた奏者が、レッスンのときにいつもより少し前傾になりながら吹いてみたらうまくいった。帰ってから自分でもやってみよう!という場合。
いまいちしっくりこないのであれば、それまでのクセであった「反る動き」を同時にやっているということも意外にありがちなのです。
では、反る動作と前傾する動作を同時にやってみたら果たしてどんなことが起きるのでしょうか。
拮抗筋が邪魔しあって不自由な動きになるし呼吸も苦しくなりがちでしょう。
というのは一つの例ですが、古いことをやめずに新しいことをいきなりはできないということは結構多いものです。
クセをやめるには
古い習慣的にやってることは無意識で起きていることが多いので、古いことをやめると強く意図する、そしてそのための時間を取ることが必要です。
たとえば新しい奏法で音を出そうとするその一瞬、古い習慣的な動きをしてしまいそうになったときに一旦楽器を下ろす。
そして新しい動きで楽器を構えて音を出す、そうやって丁寧にクセを塗り替えていくことは早く新しい奏法に馴染むためにとても役立ちます。
面倒くさい遠回りのように思えるかもしれませんが、やみくもに吹き続けて古いクセを強化するという無駄な時間を省くことができるので、結果的に上達への近道になるのです。
もしも古い習慣に戻ってしまうその一瞬に自分で気がつくことが出来なければ、アレクサンダー・テクニーク教師の訓練された観察眼を借りるのが早道となるものですよ。
新しい奏法で吹く直前に古いことをやめるため一瞬待つ、それだけで新しい奏法が動作としてクリアになるかもしれません。
調子の良さは再現できない
それでは最後に「上手くいった感じだけを再現しようとしている」というパターンを見てみましょう。
練習本番を何度も経験していれば誰でも調子が良い時とそうでないときを経験していることでしょう。
調子が悪くなると「良い時はあんな感じだったな」と感覚を思い出してそれをやってみようとするかもしれません。
でもそれで元どおり調子が良くなる、という経験をしたことはあるでしょうか。
ほどんどの場合、なんか違う・・という結果なのではないでしょうか。
これは上手く行った時の「感じ」だけを再現しようとしてしまっているから。
例えば長いフレーズが一息で吹けたという良い経験を覚えていたらその時のブレスの吸い心地が同じになるように、という意図で息を吸ってみるようなケースです。
実はこれだと一つ必要な手順が抜けてしまっているのです。
動きと意図を再現する
どんなに上手くいった記憶が鮮明でもその「感じ」だけを再現することはできません。
同じ状態を再現したいと思うのであれば必ず「良い時の感じになるために具体的には何をしていたか」ということを考えなければならないのです。
物事には必ず原因と結果の因果関係があります。
上手く行ったのは上手くいくために必要なことをしていたから。
思い出すのであれば上手く行ってた時はどうだったかだけでなく、どんな意図を持っていてどんな風に吹いていたかまで思い出してみるのがポイントです。
とはいえ技術的な悩みが減れば意識は音楽的なところに向かうので調子が良くなっている時は楽しく演奏できるでしょうし、今なぜ上手く行ってるかを分析することは少ないかもしれません。
でもたまには立ち止まって今できてることを自分でまたは誰か他人に伝えて再現するにはどうしたら良いだろうと考えてみるのも良いかもしれませんね。
まとめ
新しい奏法で心機一転、これで快適に演奏できるようになる!という期待を持ってチャレンジしているのに上手く行かなくて元に戻ってしまうのは、様々な理由があるものでした。
こういう事情があって身体や心はすぐに変化するのは難しく注意が必要だと知っておくと、自分の練習だけでなくレッスンをするときにも役立ちます。
心身の仕組みを正しく知って心と身体に過度な負担なく、本来のシステムに沿った使い方をすることで長く快適に楽しく演奏を続けられるプレーヤーが増えて行ったら幸いです。