筆者(クラリネット奏者)は以前お寺の畳スペースで演奏をしたことがありました。
事前に畳だと伺って「きっと響きにくくてやりにくいだろうな・・」と思いながら会場に向かいましたが、意外にも全くそんなことはなくよく響いて吹きやすいのです。
コンサートの直後からお坊さんの読経がはじまりましたが、それを聴いてピアニストと共に納得。
木魚や鐘、それに人の読経の声が結構広いスペースにバランスよくキレイに広がるのです。
振動することに慣れているかどうかというのは楽器やそれを扱う人の身体だけでなく、空間にも聴く人の身体にも当てはまると改めて感じた瞬間でした。
今回はそんな振動と響きや音質との関係についてまとめてみました。
音の何をイメージしてますか?
なんだか特定の音だけ妙に鳴りにくかったりこもったりする。
それは楽器の特徴だけでなくソルフェージュが出来てないことが原因かもしれません。
「出す音をイメージしてから吹きなさい」とはよく言われますが、そのイメージにはどんな要素が含まれているでしょうか。
・音程は?
・歌い方は?
・どれくらいの息で吹き込む?
・アンブシュアは?
ということはすぐに思い浮かぶでしょう。
その他に
・出す音がどんな風に身体に共振して響きを作るか
というのも演奏する上では大切な要素です。
響きとそれによって作られる振動は、楽器だけでなく身体にも伝わっていくもの。
その身体にどんな風に振動が伝わるかによって、鳴り方や音質が変わります。
無意識に音が鳴るのに任せていたら、楽器と一緒に振動させたいはずの身体の一部分を固めて響きを止めてるようなこともあるかもしれません。
ひとつひとつの音に見合った響きの作り方を考えていなければ、鳴りにくい音も抜けやすい音も同じ響かせ方になってしまうでしょう。
それでは出てくる音はデコボコになっても当たり前。
楽器の特性を知ってそれをコントロールしましょう。
そのためには自分の耳でしっかり聴くことが大切。
鳴りや音質がおかしいなと思ったら、響かせ方を変えるために身体の使い方を工夫してみてもいいでしょう。
そして音を出す前に身体の準備をするためには、どんな音をどんな響かせ方で演奏するかイメージすることが不可欠。
身体についての準備もソルフェージュの大切な要素なのです。
音程や歌い方だけでなく、そんなことも事前準備に含めると発音してから「あれ?」と違和感に驚くようなことは減っていきますよ!
振動のウォーミングアップ
ウォーミングアップのパターンを決めて日課にしている場合、決まったメニューを漫然とこなしてしまいがち。
練習は目的を持って行う方がいいとわかっていても、ウォーミングアップは練習の前段階の準備運動だし、楽器を温めることが目的だから、とぼんやり進めていることは少なくありません。
でも振動で響きや音質が変わるならより良い振動が起きる状態を作りたいもの。
ところで、振動してるものは振動し続けるという法則があるそうです。
少し間があいたとしても、振動していたものは振動を再開しやすいのだそう。
だから歌い手さんなどは「声が暖かいうちに」「声が身体を回っているうちに」リハーサルをしたがるもの。
それは身体が振動するモードのうちにパフォーマンスを行いたいということなのでしょう。
管楽器奏者にとって、その日最初に音を出すときには楽器や自分の身体や空間が振動する状態に慣れる、というのはウォーミングの目的のひとつです。
必要以上の力みがあると振動を止めてしまいますから寝起きなら身体を起こし必要な力を使えるようにすると同時に、不要な力みをしなくてすむよう身体をほぐして振動しやすい状態を整えることも演奏のためには役に立つアイデアかもしれません。
浅く座るといいのはなぜ?
鳴りや音質は身体への振動のさせ方によって変わるもの。
ということは脚をどんな状態にしているかでも鳴りが違ってきます。
手指や呼吸に関係する筋肉が演奏に影響するのは明白ですが、脚についてはピアノやハープ奏者でないとあまり意識することがないかもしれません。
でも脚は管楽器奏者にとっても重要なパーツなのです。
脚と音質の関係
響きというのは物理的な振動のことです。
振動がたくさんの場所に伝わると、音量が大きくなったり含まれる倍音が増えて音質が厚くなったりするのはイメージしやすいでしょう。
「ホールの壁や天井などに共振させる」とはよく言われますが、骨など人間の身体も共振します。
そのときに筋肉が不要な力みをしていると、せっかくの振動をムダに止めてしまいます。
「脚をしっかり踏ん張って!」「支えをちゃんとして!」という指示は現実的には固まるのではなくて動き続けることだということが伝わらないと、無駄な力みを生み響かない奏法を作ってしまうケースもあるもの。
また反対に脚をブラブラさせて不安定な状態にしておくと、今度は姿勢のバランス調整のために背中やお腹など呼吸関連の筋肉が働かなければなりません。
それは脚がバランス調整に参加していれば不要なはずの働きで、筋肉は働けば縮まり振動を止めるのでブラブラにさせておけばいいというものでもないのです。
ではどうしておくのが一番いいのでしょうか。
理想的な脚の状態は
演奏中には出したい音色によって色々に姿勢を変えますし、その度にぴったりな姿勢を探しているヒマなんかありません。
瞬間的に反応が必要なときに脚はカチカチに固まって踏ん張っていても、ブラブラにゆるんでいても必要な動きにすぐに反応できないでしょう。
ということは、奏法の必要や周りとのコンタクトの必要によって、すぐにどんな姿勢にでも動ける状態になっていることが理想です。
「座っていてもすぐ立てるように」という吹奏楽のレッスンでたまに見かける指導は、そういう意味で効率的だと言えます。
浅く座るというのは見た目がカッコいいからというわけではなく、演奏するときに有利な状態を作っておけるという意味があるのです。
何となく伝統的だからとい理由で指示をされても受け手は意味がわからないので納得しにくいかもしれませんが、なぜそれが必要かを教えてもらうと飲み込みやすくなるかもしれませんね。
楽器を変えても結局は自分の音になる
新しい機種が発売されたり、良い音の仲間に仕掛けを吹かせてもらったりしたとき、つい欲しくなってマウスピースなどセッティングを買い換えてはみた。
でもしばらく吹いていると、結局自分の音になってしまうような気がする。
そんなことって意外にあるものです。
楽器や仕掛けを変えたら始めのうちは音の変化が新鮮ですが、音の響きは楽器の構造だけで作られるわけではなく身体の使い方によっても変化します。
身体にどういう風に振動を伝えるかのコントロール技術がその一つの要因。
その人が持ってるどんな音を出そうかというイメージによって、振動のさせ方は変化させることができます。
例えば華やかな音にしたければ高い倍音をたくさん含めたいので頭や胸により振動が伝わるようにしたり、どっしりした凄みのある鳴りにしたければ骨盤や脚にたくさん共振するようにしたりなど。
長く楽器を演奏していると、どんな仕掛けでも耳で聴きながら無意識でイメージに近づくようにコントロールしているもの。
逆に言うと
・まろやかな音にしたい
・輪郭のはっきりした音にしたい
などのイメージが具体的であれば、セッティングは変えなくても音質は変えていくことが可能なのです。
もしかしたら楽器やセッティングにかけるお金を、生の音をたくさん聴く機会に投資する方が効率的という面もあるかもしれませんね。
最後に:楽器の調整で鳴りも変わる
「楽器の調子が良くないけれど楽器屋さんでの定期的なメンテナンスは特にしていない」という場合、具合は悪いのは奏法が原因なのか楽器が原因なのかわからなくなってしまうことも少なくありません。
音が出なければ調整の必要性も感じやすいですが、何とか音が出せてしまう場合は「まあいいか」と妥協してしまうこともあるでしょう。
でももしも、調整に出すという簡単なことで響きが大きく改善するならどうでしょうか。
例えばキーバランスが狂ってるためにトーンホールが塞がらなくてギュッと力を入れてキーを押さえている場合。
ギュッと力をいれて押さえるには筋肉の収縮が必要です。
ムダに力んでいれば振動を止めるので響きにくく鳴りが悪くなってしまいます。
鳴りにくいからさらに力んでさらに鳴らなくなっていく・・という悪循環は避けたいもの。
もしかしたら調整に出すという簡単なことで、響きが大きく改善してしまうかもしれません。
先生の楽器を少し吹かせてもらうとその吹きやすさにびっくりする、という経験のある方は多いでしょう。
教える機会のある方は何だか不必要に力んでしまってるように見える生徒さんがいたら、何が原因でそれが必要になってしまってるのか注意して見て、簡単に解消できる方法があるなら伝えたいものですね!