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発音が甘いと言われたときに

大きな音や高い音のために一気に吹き込む時のパワー、小さな音でそっと優しく発音するときの力加減、難しいですよね。

でも「どれくらいの力で吹けば音が当たるかよくわからないし、大は小を兼ねるから多めに力をかけてみよう!」という吹き方では当たるかどうかわからないギャンブルと同じ。

そんな発音ではニュアンスはコントロールできないし、とにかく圧力をかけて失敗なく音を出すことがゴールになったら、音を出す以上の表情や音質など本当に音楽に必要なことが置き去りにされてしまうでしょう。

今回はそんな管楽器にありがちな発音に関わるトラブルあれこれを対策と共にご紹介します。

日本人がやりがちな発音が甘くなる習慣

わたしが定期的にソルフェージュのレッスンを受けていた時、よく音の立ち上がりや発音が甘いというのを指摘されていました。

自分では「そうだよなあ、もっとはっきりしてみよう」と思いつつ、普段の会話の中でも先生の前で自分の主張をハッキリと表明するようなことはあまりなかったので、その延長で何となくそっと歌ったり楽器でもそっと音を出したりしてしまっていました。

これははっきりさせたくないのではなくて、狭い部屋の中に2人しかいないという場面でそんなに激しくきっぱりと主張するのはおかしいし、音量的にも迷惑だろうという無意識のメンタルブロックがあったのです。

実際にそこで行っているのは会話ではなくレッスンなので、そんな遠慮は無用なはずなのに。

そしてレッスンではない少人数のアンサンブルの場面でも同じように、発音が甘くなったり立ち上がりが遅れたりという習慣がありました。

これは気を使ってそっと話すときの息の使い方の習慣で、そっと吹き込み始めるから必要な瞬間に遅れたり発音ミスになったりしていたのです。

ソルフェージュの個人レッスンには毎週1回3年間通っていて、そのうちに話すときと歌や楽器を扱うときの息のコントロールは違うものだということが身についた頃から発音もクリアになってきました。

誰にでも同じように必ず起こっているということではないでしょうが、もしかしたら同じような習慣を持っている方は日本人には特に多いのではないかなと思います。

あなたは話すときと楽器演奏のとき息はそれぞれ違うコントロールになっていますか?

 

感じたように演奏するには

楽しい曲を演奏するときや悲しい曲を演奏するとき、他にも描き出したい作品の表情というのは色々あるものですが、楽しい気分で演奏すれば楽しい演奏になるのでしょうか。

たとえば軽やかなスタッカートの曲を、軽やかな気分で軽やかな息で吹いたらどうでしょう。

軽やかなスタッカートを音で表現するためには、タイミングを狙うための集中力と発音のための息圧が必要です。

ふわふわした息で吹いてしまっては、音として発音される前に狙ったタイミングは通りすぎてしまいます。

スラーが書いてあるからと、そのフレーズ内を全部同じ息圧でなめらかな吹き方をしたらどうなるでしょう。

レガートで音を繋いで吹きたいなら、ひとつひとつ音によって違う楽器の特性を考慮に入れて一音一音違うコントロールが必要です。

オクターブ違う音に進むのに前の音と同じ息で吹いたら音程がぶら下がってひどいことになりますし、場合によってはかすれてしまい音にならないことも。

わたしが以前アンサンブルで一緒に演奏させていただいた世界的なフルーティストさん(彼は大学の先生で、学生と一緒に演奏してくださるという企画でした)が、軽やかでふんわりした場面を表現するために驚くような息のスピードと圧力をかけて一音一音へのすごい集中力を持って演奏されていました。

それまで「悲しい場面は悲しい気分を持って、楽しい曲は楽しい気分で、そうすれば奏法も自然にそうなる」という漠然とした感覚で演奏していた学生時代のわたしはとても驚いたし、狙った効果を出すために気分とは関係なく的確な楽器の操作をする必要があるという事実に気付かせていただいたのでした。

ソルフェージュのレッスンで「悲しい曲で何のコントロールもされていない無神経な音を出してから悲しい顔を客席に見せたとしてもお客さんは笑うわね」と言われたことも思い出されます。

雰囲気と実際の操作を分けて考えること、大切ですね。

 

発音の甘さを改善する方法

発音をはっきりさせたいと思った時、舌をしっかりついてアタックをキツくするというアイデアは、発音の本質であるブレスコントロールよりも舌での仕事が多くなってしまい、汚いアタックになるのでオススメではありません。

代わりに当教室のレッスンでよくオススメしているのは、アクセントを付けながら発音する練習法。

ここでいうアクセントはsfzのようなキツくアタックする種類のアクセントではなく、深く吹き込む動作を瞬時に行うしっかり鳴らすタイプのアクセントです。

音を立ち上げるのは舌の動きではなく息が流れているかどうか。

発音や立ち上がりをはっきりしようと思うとついつい舌で何かコントロールをしがちですが、それは実は本質的な問題を解決せず一時しのぎにしかなりません。

そこで舌は使わずにアクセントをつける練習をすることを提案しています。

ロングトーンのパターンから少しずつ段階的にアクセントを使うよう誘導するカリキュラムになっており、鳴りや発音の甘さを改善していくためのブレストレーニングにもなっています。

文字では正確に伝わらないのであまり文章にしてきませんでしたが、管楽器演奏の肝である呼吸のコントロールを学ぶ上で外すことのできないスキルのひとつです。

 

飛び出さないかすれない発音

休符の後や長い休みの後の入り、発音の瞬間に音がかすれたり遅れたり飛び出したりせずにちゃんと出られるかどうかドキドキするもの。

大きく思い切って出るより、むしろ静かに丁寧に発音したいときの方がうまく出来るかどうか心配になるのではないでしょうか。

ゲネでちゃんと音が出たからってリードや唇がそのままの状態ということはありませんし、本番中に作品と関係のない音出しをするわけにもいかないし、その瞬間にどうなっているかの出たとこ勝負にドキドキしてしまうというのは当然のこと。

そんなときにモノを言うのは、練習段階でどれだけ丁寧に発音について探求しておいたか。

「これくらいの噛み具合で」「息の量やスピードがこれくらいで」「唇の締め具合がこんな感じで」、というバランスのバリエーションをたくさん知っておくのはとても役に立ちます。

とはいえ発音に必要な力や圧力は、湿度や空間の吸音の具合や気温などに左右されるもの。

なので噛み具合や息の圧力など含めバランスを様々なグラデーションで捉えられていると、「このアンブシュア」という固定化した奏法ではなくその時々でやりたいことに適した奏法を選べるようになります。

そのためには実際に楽器を吹きながら「もうちょっとで音が出るな」というタイミングのバランスを感じつつ、丁寧に音に触るように発音する経験をたくさんすることが有効です。

一か八か吹いてみて「あ、出た!」という発音をいくら繰り返しても、何度もまぐれ当たりするだけでグラデーションはきめ細かくなっていきません。

パンっと当てるような発音も、実はその丁寧にちょっとずつ発音していく奏法が素早く行われているもの。

発音の練習をするときにぜひ参考にしてみてください。

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  • この記事を書いた人

有吉 尚子

1982年栃木県日光市(旧今市市)生まれ。小学校吹奏楽部にてクラリネットに出会い、高校卒業後19才までアマチュアとして活動する。20才のときに在学していた東京家政大学を中退し音大受験を決意。2003年洗足学園音楽大学入学。在学中から演奏活動を開始。 オーケストラや吹奏楽のほか、CDレコーディング、イベント演奏、テレビドラマBGM、ゲームのサウンドトラック収録など活動の幅を広げ2009年に洗足学園音楽大学大学院を修了。受講料全額助成を受けロシア国立モスクワ音楽院マスタークラスを修了。  及川音楽事務所第21回新人オーディション合格の他、コンクール・オーディション等受賞歴多数。 NHK「歌謡コンサート」、TBSテレビドラマ「オレンジデイズ」、ゲーム「La Corda d'Oro(金色のコルダ)」ほか出演・収録多数。 これまでに出演は1000件以上、レパートリーは500曲以上にのぼる。 レッスンや講座は【熱意あるアマチュア奏者に専門知識を学ぶ場を提供したい!】というコンセプトで行っており、「楽典は読んだことがない」「ソルフェージュって言葉を初めて聞いた」というアマチュア奏者でもゼロから楽しく学べ、確かな耳と演奏力を身につけられると好評を博している。 これまでに延べ1000名以上が受講。発行する楽器練習法メルマガ読者は累計5000名以上。 現在オーケストラやアンサンブルまたソロで演奏活動のほか、レッスンや執筆、コンクール審査などの活動も行っている。 「ザ・クラリネット」(アルソ出版)、吹奏楽・管打楽器に関するニュース・情報サイト「Wind Band  Press」などに記事を寄稿。 著書『音大に行かなかった大人管楽器奏者のための楽器練習大全』(あーと出版)を2023年8月に発売。Amazon「クラシック音楽理論」カテゴリーにて三週間連続ベストセラー第一位を獲得。 BODYCHANCE認定アレクサンダーテクニーク教師。 日本ソルフェージュ研究協議会会員。音楽教室N music salon 主宰。管楽器プレーヤーのためのソルフェージュ教育専門家。クラリネット奏者。

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