「周りの音に反応してアンサンブルをしたいけれど、自分が音を出してると他の人が何をやってるかわからなくなる」
それは単純に耳が良くないということだけでなく、聴いた音を楽譜としてイメージするという頭の整理作業ができていないからかもしれません。
まして演奏中に自分が出す音について頭がいっぱいの状態で他人が演奏している音を楽譜としてイメージするのは、さらに難易度が高いもの。
克服するには聴音と言われる聴き取った音を楽譜に書き起こすトレーニングが役立ちます。
今回はそんな聴き取りのトレーニングについて考えてみましょう。
耳コピで耳が良くならない理由
耳のトレーニングとして代表的な「聴音」という聴き取ったものを楽譜にしていく手法は、ソルフェージュの訓練としてメジャーでよく知られています。
「じゃあやってみよう!」と思うかもしれませんが、
手近な曲でただ耳コピができても聴音としての効果は無いのです。
実際、音大・音高受験生の多くがただ聴き取って楽譜にするだけのゲーム感覚で聴音、いわゆる耳コピに取り組んでいます。
ただ単に聴こえる音を楽譜にするのは簡単なもの。
・和声進行はどうなっているか
・音量バランスはどうか
・音の立ち上がり方はどんな風か
・テンポはどうでビート感はどうか
・転回型による安定感の違いは
そんな音の細部や音楽的な変化はろくに聴かなくても楽譜に起こすことは可能です。
表面の音並びだけを聴いて楽譜に書き起こす聴音が出来たからといって、楽器演奏が上手かどうかにはあまり関係がありません。
しかし表面の音並びだけでない細部まで聴き分けることの出来る耳を持っていると、学びの質が格段に良くなって上達スピードが速くなります。
そうすると同じレッスンからでも、表面上の音並びしか聴けていない学生よりもずっとたくさんのことを吸収できるのです。
そういう学生は音大・音高入学後にどんどん上位の成績を収めて、プレーヤーとしての仕事も早く始めることが出来ます。
そう。
実は聴音というのは音の高さを聴くだけではなく、他にもたくさんの要素を聴ける耳を作るためのトレーニングであり、単なる耳コピとは別物なのです。
そしてそれを確実に出来るように、順序よく段階的に導いてもらうのがソルフェージュのレッスンです。
ただ聴き取って楽譜を起こすという単純なこと以上に奥が深いものなのですね。
「自分で耳コピをしてみたけどいまいち効果を感じない」
という方は音の高さは聴き取れて楽譜としては一応鳴っている曲を書けても、じゃあそこにどんな情報が含まれていて聴こえているべきなのかが抜け落ちているというパターンが多いもの。
それはソルフェージュ自体に意味がないのではなく、やり方が間違っているということなのです。
せっかく聴き取って楽譜に起こすなら、おたまじゃくしを並べるだけでなく音楽の細部まで耳を澄ますように心がけたいものですね。
聴音の間違え方別タイプ診断
耳コピよりもたくさんの情報をキャッチする訓練である聴音、トレーニングとして聴き取っている様子だけでもその人がどれくらいの耳レベルかは実はわかるものです。
ただ書いてる姿といえども、意外にその動作自体が足りない部分がどこなのかを示していたりするもの。
興味深いですね。
それでは聴音トレーニングで書き取る様子からは何がわかるのでしょうか。
せっかくなので診断テスト的に見てみましょう。
この中からあなたのタイプに当てはまるものはあるでしょうか。
あなたのタイプは?
●聴き取ったフレーズを頭から順に追いかけて書いていき、難しい個所で手が止まる
●音程が跳躍したときに迷子になってわからなくなってしまう
●音程は取れているのにリズムを間違えてしまう
●わかるところだけ拾ってところどころ書き進めて行く
●途中から調が変わってしまう
●休符なのか伸ばし音なのか判断出来ない
●聴こえる音が何なのか見当もつかずなにも書けない
複数ある場合には全ての結果をチェックしてみましょう。
診断結果
結果は以下の通りです。要素が複合的に絡み合っているケースも多く見られます。
聴き取ったフレーズを頭から順に追いかけて書いていき、難しい個所で手が止まる
複雑なリズムや跳躍音程でつまずいているサイン。
音程が跳躍したときに迷子になってわからなくなってしまう
和声が聴けていないタイプ。
音程は取れているのにリズムを間違えてしまう
ビート感があやふやで拍子感がないタイプ。
わかるところだけ拾ってところどころ書き進めて行く
特定の音域に慣れていて他の音域が聴こえないタイプ。
途中から調が変わってしまう
移調楽器を演奏していて実音ではなく記譜で音を捉えているタイプ。
休符なのか伸ばし音なのか判断出来ない
語尾を丁寧に演奏しないタイプ。
聴こえる音が何なのか見当もつかずなにも書けない
音階各音の役割を知らず調性感が欠けているタイプ。
他にも色々のケースが存在します。
あなたがどんな風に聴音に取り組むかで、どんな演奏をするタイプなのかが専門家には大体わかります。
ソルフェージュは聴音だけでなく色々なアプローチ手法を組み合わせたものですが、こんな風に聴音一つでもその人に欠けていて強化が必要なものが見えてきます。
だからこそ個別に足りないものを強化していくトレーニングが可能になるのです。
【実践】モノマネごっこで聴く力UP!
そもそも聴いた音がすぐに楽譜として頭に浮かぶようになるためには、ある程度の慣れが必要です。
なのでまずは自分は音を出していない状態で音を聴き取る練習をしてみるのが良い導入になります。
例えば聴いたリズムを手で叩いたり、聴いた旋律を覚えて歌ったり、要するにモノマネと考えると良いでしょう。
聴こえた音がどんな楽譜なのかがすぐにわかるほど頭が整理されていれば、新しい曲で譜読みをするときにもリズムや音程が正確に表現できるようになります。
ここでは聴音トレーニングの導入としてのモノマネ耳トレをご紹介します。
楽団のお仲間と一緒に取り組めるので、休憩時間などに遊び感覚でチャレンジしてみてください。
モノマネ耳トレの手順
step
1まずは聴く
自分は楽譜を見ないで誰か身近にいる人に短いフレーズを吹いてもらいます。
初めはごくごくシンプルにこんな素材がいいかもしれません。
step
2真似をする
何度かよく聴いたらそっくりそのままマネをしてみましょう。
(ニュアンスや音量変化も忠実に)
step
3役割チェンジ
役割を交代します。
今度はニュアンスや音量変化にも気を配りながら、聴き取りやすく明確に1モチーフ吹いてあげましょう。
簡単なフレーズで何度も交代しながらトレーニングを行いましょう。
注意ポイントと効果
聴く作業と吹く作業の両方を行うことによって、より精密な表現を行う大切さを実感することが出来ます。
ぜひ役割交代をしながらお仲間と一緒にお互いスキルアップしていきましょう!
専門的に聴音を行う場合はピアノで先生が弾いた音を聴き取って楽譜にしていく作業になりますが、楽団の同じ楽器の仲間に協力してもらって自分が普段一番聴き慣れている楽器の音でトレーニングを行うとわかりやすいのでおすすめです。
日本人ならフランス語よりは日本語の方が、細かいニュアンスが理解できるのと同じかもしれませんね。
さらに同じ楽器なら、どうしても聴こえる音が何なのかわからない場合は、運指をカンニングすることができるのも心強いポイント。
わからないからって焦って簡単に正解を教わってしまうと、自分で何の音だか判断したという経験を積み重ねる大切な機会を失ってしまいます。
ヒントを得つつも自分で判断したという経験を積むために、わからなければ運指をカンニングするのはここではとても良い方法です。
さらにもし運指をカンニングするだけでわからなければ、実際自分の楽器で音を出してみて確かめても良いかもしれません。
初めは隣り合った音なのかそれとも離れた音なのか、高くなったのか低くなったのか、というところからスタートし、絶対に正解を簡単に尋ねてしまわず根気よく少しずつ繰り返すとだんだん聴き取れるようになっていきます。
もしも簡単にマネができたら、今度は楽譜にそれを書き起こしてみましょう。
ニュアンスや音量の変化も楽譜に書けるとより頭が整理されていきます。
音程の変化やリズムの形がはっきりわかるようになると譜読みのスピードが段違いに上がっていきます。
自分でやってみてもよくわからない!
もしもただの耳コピを自分でやっていて「これが問題になっているな」という課題がいまいち見えてこないとしたら、それは当然です。
なぜかというとあなたはソルフェージュ教育の専門家ではないから。
だからこそつまずいて困っているのでしょう。
それぞれの専門家でない人が家を建てたり、飛行機を操縦したり、病気を治したり出来ないのと同じで、餅は餅屋です。
音並べゲームだけではない聴き取れる情報のあれこれ、レッスンで体験してみるのも楽しいですよ!