思考と心 練習 身体の仕組み

スランプ対策ー「調子が悪い」を慢性化させないために

「致命的なトラブルを抱えているわけではないけれどスッキリしない」

「もうちょっと上手く吹けるはずなのに、行き詰まっている」

「いつもモヤモヤを抱えていて不調気味」

そんなちょっとした調子の悪さを慢性化させないために知っておきたいことをまとめてみました。

 

出来たはずのことが出来なくなる

レッスンのときにいつも困っていた箇所ができたから「もう大丈夫だな」と安心していたのに、いざ合奏の中でチャレンジとするとやっぱりうまくいかない。

これは出来た時がまぐれだったというわけではありません。

やろうとすることを丁寧に確認しながらやれば出来るのなら、あなたにはもうそれをする技術があるのです。

でもいざ合奏の中に入って色々な刺激に気を取られつつ慌ただしくやろうとすると出来ないのは、まだ無意識で出来るほどの習慣的な動きにはなっていないということ。

つまり、合奏の中でそわそわしながら取り組むときには練習してたどり着いた『新しくて上手く行く手順』ではなく、『今までのやり慣れていて上手くいかない手順』を無意識で選んでやっているからです。

新しくて上手く行くやり方を選択することに慣れていないのであれば、それは当たり前でしょう。

何事もとっさに反応しなければならないようなときや、無意識でやろうとしたときには、慣れてるやり方を選びがち。

だからこそ新しい動作を選ぶことに慣れるまでは、ゆっくり確実に意識的な選択を繰り返すという積み重ねが必要なのです。

練習というのは技術そのものを身につけるというだけではなく『その技術を使うことを選ぶ』という脳の使い方の習慣付けも含んだものです。

新しく始めたやりたい動作が、無意識にそちらを選べるような慣れた動作になるまでは、きちんと意図して選択が出来るだけの時間を取るというのも大切ですよ。

 

あっちが直ればこっちが悪くなる

何かのキッカケで奏法を変えるとき。

一部のクセが直ったとしても、その代わりに新たに有害なクセが生まれては困りますよね。

例えば。

 

●音程が下がるからアンブシュアを少し締め付けてみよう

→音程を上げるためにアンブシュアをタイトにしたら、変わったのは音程だけですか?

 

●指が動きやすいように右手親指を深めに楽器を支えてみよう

→親指の位置を変えた時、変わったのは指の操作性だけでしたか?

→音質や息の抵抗感や楽器の重さは変わりませんでしたか?

 

一箇所なにかを変えたら、連動して関係してる部分が変化するのは当然です。

そして連動して変わった他の箇所は、さらに関係する別のどこかに影響を与えます。

結局は一箇所なにかを変えたら全身が変化するのです。

ということは、一箇所なにか変えるのなら全身の動きのバランスを新たに取り直す必要があるということ。

人の身体は常に微細にバランスを取り合いながらうまく機能するよう自動調整されています。

暑くなったら汗をかいて体温調節をするし、運動したら心臓がドキドキして全身に酸素を供給するのと同じ。

・筋肉の運動についても同じで、この筋肉が働くならこっちは休む

・こっちが休むならあっちはもっとたくさん働かなきゃいけない

そういうバランス調整の機能が備わっているのです。

だから物事の一部だけを変えようとするのは、全体のバランスを混乱させ壊すことになってしまいます。

一箇所上手く行ったら別のことが上手くいかなくなるというのは、そういう全体のバランスを考えていないから。

部分にフォーカスするときにも全体を俯瞰的に見る目を持つ、大切なことですよ!

 

楽器と身体の関係

調子が悪いのは楽器か自分か

いつも使っている楽器や仕掛け、良いときもあるし調子の悪いときもあるでしょう。

「何だか調子が悪いな」と感じたときに真っ先に疑うのは楽器やリードや仕掛けかもしれません。

何か変だなと思いつつ強く吹いてみたり、ちょっと工夫したりすると「まあ吹けるかな」という程度に回復することもよくあります。

それでもしばらくして「やっぱり何だか変だな」と感じたら、今度は自分の吹き方を疑い出したりしませんか?

「もしかしてアンブシュアが変わってしまったかな?」

「寒くなってきたから身体が力んでいるのかな?」

「この前の本番で無理やり音程を合わせたから変なクセがついてしまったかな?」

そんな風に考えるのは自然なことでしょう。

そしてこういう場合は結局、最初の印象通りに楽器や仕掛けが劣化してるのが原因のことも多いものです。

日常でずっと使っていると、ほんの少しずつ起きる日々の変化には気付きにくいもの。

毎日会っている人の髪の毛がいつ伸びたのか気がつかないのと同じです。

いつも使ってる楽器や仕掛けにちょっとでも不都合を感じたら、そのあなたの感覚は正しいのです。

リード楽器ならそのときケースに入っているリードを全部捨てて一新してしまいましょう。

マウスピースやリガチャーやタンポを変えてみるのもリフレッシュして良いですね。

ついでにキーのバランス調整を専門家にお願いしたら、スッキリ吹きやすくなることもあるでしょう。

管の中にヘドロが溜まっていたら、思い切って洗ってしまえば息が通りやすくなるかもしれませんね。

こういう『力ずくで音を出そうと思えば出せまいこともない』というレベルの不具合に目をつむって使い続けると、おかしなクセがついて本格的に調子を崩していくことになりかねませんから注意したいところです。

楽器や仕掛けは調子が悪いと感じたときには、かなり状態が悪化して吹き方にも影響が出ていることが多いもの。

特に違和感はないと思っても、何ヶ月に一回など決めて定期的にリペアに出したり新しいリードを開けたりするのがおすすめですよ。

 

リードの調子が悪いと身体もこわばる

ある日の練習中のこと。

全然反応の良くないダメなリードを吹いた瞬間、自分の首や身体がギュッと固まってこわばるのに気が付きました。

ほんの些細な変化ではありますが、積み重なると疲労や肩こりなどに繋がって行きそうな反応です。

自分の反応ながら興味深く、そこから自分の動きをより注意して観察してみました。

これは行おうとしていた動作が、今使っていたダメリードでは出来ないので起きた反応です。

アレクサンダーテクニークの視点でみると「不可能なことをしようとしてる」という状態でしょう。

人間の身体は脳からの指令に反応して動きます。

そして指令が物理的に不可能なことでも、身体はそれを達成するために何かをしようとします。

ですが実際に有効な「出来ること」がないと、動けず固まってしまうという仕組み。

例えば、まだ満足に音符を把握出来ていないテンポの速い曲を、初見でいきなりインテンポで吹こうとしたら身体がガチガチになって上手く吹けないでしょう。

それと同じ「不可能な意図」ということです。

ダメリードは調整したり他のものと取り替えたりなど、きちんと使えるリードを選ぶことが意図通りに演奏するために必要な手順です。

それなのに必要な手順を通らず、使えないリードで無理やり吹こうとするのは物理的に不可能なこと。

使えると思って吹いてみたリードがダメだったという「不可能ですよ」のサインを突きつけられて、良いリードだった場合に行おうとしていた動作にブレーキをかける動きが、今回起きた首の強張りの原因です。

他にも「また新しい箱を買わなきゃ・・」という憂鬱な思いも関係しているかもしれませんし、きっと人によっても色々なパターンがあるでしょう。

心当たりのある反応だなと感じた方は、自分が強張ってしまいがちな場面でなぜギュッとなるのか考えてみるのも面白いかもしれません。

もしかしたらパソコンが作業中にフリーズしたときや、作りかけの料理を引っくり返した、というような時にも起きている可能性もありますね。

いつも無意識に固めてしまう原因がわかったら、わざわざ吹きにくくするような動きを選択しないという自由が生まれます。

自分の反応に意識的になること、役に立ちますよ!

 

キツさに慣れるとエスカレートしたくなる

筆者はこの頃、健康管理と体力維持のためにランニングを習慣にしています。

だいたい5〜6キロなので全然大した距離ではないのですが、最初は果てしなく長くキツい感じがして大変でした。

でも慣れると別段どうということもなくなるのですよね。

そうなるとモヤモヤとこんな考えが出てきます。

「こんなに楽でいいのだろうか。もっとキツく感じなければ運動効果はないんじゃないかな?もっと苦しさを味わいたい」

変でしょうか(笑)

でもこの現象、管楽器吹きによく起きてることなのです。

マウスピースやリードや楽器に、または新しい奏法に慣れるまではすごく重くて大変に感じるかもしれません。

ですが、慣れてくると抵抗を感じなくなって「もっと重くした方がいいかな?」「こんな楽じゃダメじゃない?」などと考え始めるでしょう。

吹き込みや、唇をすぼませる動きや、噛む力などの筋力はどれくらい働いているのか目に見えて計れるわけではないので、つい感覚を頼りにしてしまいます。

その感覚を感じにくくなると、上手くいっているのかどうか不安になるのです。

慣れたら感じなくなるのが自然なものである感覚をどんどん追いかけていったら、どんどんキツい奏法や仕掛けになっていくばかり。

エスカレートしていけば怪我やトラブルに繋がってしまうことが多いので、感覚を頼りにして奏法を作ったり維持したりするのは危険なのです。

楽に感じるのは慣れて必要な筋力が付いたから。

何もしていないから楽なわけではありません。

やってないから楽なのと、やり慣れたから楽なのは別のこと。

混同しないように気をつけたいポイントですね!

 

些細な痛みや違和感を見逃さないで

すごくがんばって練習したとき、疲れるのとは別に痛みが出ることもときにはあるでしょう。

そんなとき、「まだまだ努力が足りないんだ」「自分の弱さだから克服しなきゃ」と思ってはいないでしょうか。

もし速いパッセージとかスケールを一気に練習しすぎて指が痛くなったり思い通りの動きをしなくなったら、それはケガです。

気合いが足りないとか心の弱さがどうだとか気のせいとかではありませんから、まずは休みましょう。

もし無理にやり続けてその状態を悪化させてしまったら、ジストニアや腱鞘炎など治すのに時間のかかる怪我やトラブルを引き起こしてしまいます。

そうなったら疲れたから一晩寝て回復を待つ、という程度ではないもっと長期間の根気強い治療が必要になるし、悪くすると演奏を続けられなくなってしまうことだってあるでしょう。

こわいですね。

マラソンなど運動する場合もそうでしょう。

昨日まで体操もしなかった人が突然42.195キロを走ったりしたら、間違いなくどこかにケガをします。

楽器の練習も同じこと。

訓練のために一度にかけられる負荷というのは無限ではありません。

こういうのは気合いで乗り切れるものではなく休息で回復させるべきものなので、気力に頼った更なる酷使で致命的なケガに発展させ内容気をつけたいところですね。

必要なときにきちんと休むのは、サボっているわけではなくて上達のための建設的でとても有効な手段ですよ。

 

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  • この記事を書いた人

有吉 尚子

1982年栃木県日光市(旧今市市)生まれ。小学校吹奏楽部にてクラリネットに出会い、高校卒業後19才までアマチュアとして活動する。20才のときに在学していた東京家政大学を中退し音大受験を決意。2003年洗足学園音楽大学入学。在学中から演奏活動を開始。 オーケストラや吹奏楽のほか、CDレコーディング、イベント演奏、テレビドラマBGM、ゲームのサウンドトラック収録など活動の幅を広げ2009年に洗足学園音楽大学大学院を修了。受講料全額助成を受けロシア国立モスクワ音楽院マスタークラスを修了。  及川音楽事務所第21回新人オーディション合格の他、コンクール・オーディション等受賞歴多数。 NHK「歌謡コンサート」、TBSテレビドラマ「オレンジデイズ」、ゲーム「La Corda d'Oro(金色のコルダ)」ほか出演・収録多数。 これまでに出演は1000件以上、レパートリーは500曲以上にのぼる。 レッスンや講座は【熱意あるアマチュア奏者に専門知識を学ぶ場を提供したい!】というコンセプトで行っており、「楽典は読んだことがない」「ソルフェージュって言葉を初めて聞いた」というアマチュア奏者でもゼロから楽しく学べ、確かな耳と演奏力を身につけられると好評を博している。 これまでに延べ1000名以上が受講。発行する楽器練習法メルマガ読者は累計5000名以上。 現在オーケストラやアンサンブルまたソロで演奏活動のほか、レッスンや執筆、コンクール審査などの活動も行っている。 「ザ・クラリネット」(アルソ出版)、吹奏楽・管打楽器に関するニュース・情報サイト「Wind Band  Press」などに記事を寄稿。 著書『音大に行かなかった大人管楽器奏者のための楽器練習大全』(あーと出版)を2023年8月に発売。Amazon「クラシック音楽理論」カテゴリーにて三週間連続ベストセラー第一位を獲得した他、「音楽」カテゴリー、「クラシック音楽」カテゴリーでもベストセラー第一位を獲得。 BODYCHANCEおよびATI(Alexander Technique International/国際アレクサンダーテクニーク協会)認定アレクサンダーテクニーク教師。 日本ソルフェージュ研究協議会会員。音楽教室N music salon 主宰。聴く耳育成®︎協会代表理事。管楽器プレーヤーのためのソルフェージュ教育専門家。クラリネット奏者。

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