アレクサンダーテクニーク 思考と心 練習 身体の仕組み

古い習慣がやめられない

新しい吹き方の方が上手くいくのはわかっている。

だからそれを行いたいのに、なぜかどうしても元のやり方に戻ってしまう。

アレクサンダーテクニークのレッスンで起きがちな、人間が古い習慣に引きづられてしまう傾向について考えてみました。

どうしても前の吹き方に戻ってしまう

アレクサンダーテクニークのレッスンを何度か受けて、頭と背骨の状態次第で他の全てのパフォーマンスが影響されるとわかると、吹くときにそのAO関節がどうなってるかに注意しながら動きを起こしたくなるものです。

そして注意深くAO関節を固めず吹き始めようとして、楽器を構えたりアンブシュアをアジャストしたりブレスをしたりと準備をします。

それから「いざ空気を楽器に送り込む!」というその瞬間に、古い使い方に戻って身体を固めてしまうパターンの多いこと。

そして「アレクサンダーテクニークを使っても良くならない」と思ってしまったり。

こういうパターンはそもそもアレクサンダーテクニークを使えていないから起きることなのですけれどね。

よくよく注意してコントロールしながら吹こうとしているのに、なぜ息を吹き込む一瞬で元通りのやり方に戻ってしまうのでしょうか。

筆者もそういう経験を何度もしています。

というのは今までにやっていた「吹く」という動きと、首を固める動作がセットで脳にインプットされていたから。

『吹くときには固める』という意図が無意識で習慣になっていたら、「吹く」という自分にとって大切なことを行う瞬間には自然に動作として出てきます。

本当はその自分にとって大切なことをする瞬間こそ、新しくてうまくいくやり方にしたいのですけれど。

古くて慣れている方法は今までやってきた安心感もあってなかなか手放すのが難しいものです。

自分にとって大切なことほど、方法をリニューアルするのが難しい。

それはこの大切な瞬間に、新しい方法への信頼が古くて慣れ親しんでいる方法への信頼に負けているからです。

解決するためには、古くて慣れ親しんだ方法より、新しく上手くいく方法を信頼できるようになるまでの、信頼の積み重ねを経験する必要があります。

練習とはその新しい方法への信頼を構築する作業でもありますね。

ぜひ気にしてみてください。

 

「吹く」と「固まる」がセットになるなら

吹き込むときには身体はあちこちが動けたほうがコントロールの精度が上がって都合がいいのはわかっている。

だから固まりたくないと思っているのに「吹き込む=固まる」という意図がセットとして習慣になってるために上手くいかない。

そんな場合はいったいどうしたら良いのでしょう。

こういうケースのレッスンでは、意図をセットにしなかったときにどんなことが起こるのか体験するために、吹くこととは全く何の関係もない違うことを考えながら吹いてみたりします。

「吹く」と思ったら「固まる」がセットで付いてくるなら「吹く」と思わない、ということ。

吹くと思わなくたって長年演奏してきた人は無意識的に楽器に空気を流し込むことはできます。

そうすると、

『固まる』という意図が生まれないまま息を入れることができた!

という成功体験になるケースはよくあります。

面白いですよね。

ただし「吹くと思わない」と考えてはやはり吹くことを考えてしまうもので、その代わりに

「ハンバーグを食べる」

「ベッドでゴロゴロする」

「走る」

など違うことを行うイメージを持ちながらやるのかコツ。

体験したい方は面白いのでぜひ試してみてくださいね!

 

一瞬の妥協で水の泡にしないために

楽器に息を吹き込む瞬間に、つい無意識にもとの吹き方に戻ってしまうことについて。

次は音を出すその瞬間に、元の奏法に戻らず新しい方法で発音するための、現場で使えるアイデアについて取り上げてみましょう。

とっさの反応が必要な場面で「今回は試しにこう対応してみよう!」というような実験的な思考が出てくる人はほとんどいないでしょう。

過去に上手く行ったという記憶に結びついた、いつものやり方で切り抜けようとすることがほとんどです。

つまり最後の集中したい一瞬でついうっかり元のやり方に戻ってしまうのは、新しいやり方よりも古いほうが慣れていて安全で信頼できるから。

では。

そんなとっさの場面や集中したい大切な局面にいるときに、今まで通りか新しいやり方かを選ぶにはどうしたらいいのでしょうか?

当たり前ですが、いきなり大切な本番で実験せず、まずは安全な場所で実験をしましょう。

例えば、楽器を構えるところやアンブシュアのセッティングなどは、注意深く背骨が縮まらないよう気をつけながらできたとします。

そのときにはきちんと意識に「こうやろう」という意図がありましたよね。

それを息を吹き込む瞬間にも意図していますか?

もしかして忘れていませんか?

ほんの一瞬だけ意図が抜けて頭が空白になった状態で、もしくは息のことしか考えていない状態で吹いたら、それは無意識で習慣的な動きに任せるということ。

「息を吹き込む」=「頭背骨を固める」

という意図がセットでインプットされていたら、それは当然ながら元の奏法に戻ってしまいます。

この一瞬の意図の抜けに気づくことが難しいのですが、実際の動きの中でこれに気がつけたらしめたもの。

息を吹き込む瞬間に頭首を固めていることに気がついたら、そのまま吹かないでいったん楽器を降ろします。

「まあいっか」とそのまま吹くと、固めと吹込みがセットであるという認識をより強く脳と身体に覚え込ませてしまいます。

『この動きは違うと気づいたから、一旦やめて新たに思い直してから吹く』

これだけでずいぶん選択肢が増えるものです。

この古い反射や反応を引き起こさないようにすることを「抑制」と言います。

やりたくないことは妥協してそのまま続けず、気づいたときにはやめるのです。

その選択の積み重ねで本番のような切羽詰まった場面でも、意図的な選択が出来るようになっていきます。

妥協して「固まってるのはわかってるけどそのまま吹いちゃおう」を繰り返すと、選べる選択肢は固まって吹くという動きだけに固定化されていきます。

それでは新しい動きに移行できるはずがありませんよね。

・気づいたならやめる

・自分で気づかないならちゃんとわかる人に見てもらう

その繰り返しで、今よりもっと演奏の質を高めるために動作と思考の選択肢を増やして行ってくださいね!

 

わかっているけどやめられない

普段は丁寧に音を出すけれど、合奏になるとついつい雑になったり難しい箇所に差し掛かってうっかりいい加減な音の出し方をして変な音になったり、そんなことってありますよね。

そういう「ちょっと今だけ」のつもりの望んでない吹き方も経験として脳は記憶していきます。

だからいつでも丁寧に音を出すよう心がけるのは大切ですが、それでも人間ですからついうっかりいい加減になってしまう瞬間もあるでしょう。

そういうときは、気がついた時にすぐ一旦吹くのをやめるのがオススメです。

吹き続けながらハッとしてちゃんとした吹き方に転換しようと思っても、わかってはいるけれどやめられない状態になってしまいがち。

これは身体がそもそも雑な吹き方をするための準備をした上で、結果として起きていることだから。

一旦吹くのをやめて、新たにどう音を出したいか考える。

そうすると必要な身体の動きが準備されて動き始めるので、「わかっているけれど選べない」ということはなくなります。

「ほんの一瞬のことだし」

「今だけたまたま」

そんな風に望まない吹き方を続けてしまっては、「そういう奏法もありね」と脳が覚えてしまいます。

それでは普段どういう吹き方をするのかを気をつけて、注意深く望ましい経験を積み重ねて来たことが台無しになってしまいます。

はじめは時間がかかるでしょうし面倒に感じるかもしれません。

ですが「本当に望む方法でしか吹かない」ということを徹底すると、後々無意識レベルで理想の奏法を選べるようになっていきす。

頭に入れておいてくださいね!

 

うまく行かないけど死んでないから安全

何度も同じことを指摘されて、頭ではわかってるのに何故かそのときになると思っていないことをしてしまう・・

実は「頭でわかっている」と「必要なときに選択できる」は全然別のことなのです。

必要なときに使えないなら、それは知っているだけで蜘蛛の巣の張った使えない知識でしかないということ。

どうしてわかってることを実際にはできない、ということが起きるのでしょうか。

これは単に新しい動作に慣れてないということだけでなく、もしかしたら無意識に「とっさのときに信用できる動作プランではない」と思ってしまっているからかもしれません。

誰しも咄嗟に反応しなければならない場面では、より安全にできる方法を選ぶものです。

それは本能的なレベルで「今までやってきたことは安全」という思いがあるから。

その時に、これまでその動作で本当に上手くいっていたのかどうかは関係がありません。

「新しいことをするのには危険が潜んでるかもしれない。だから知ってることをする方が安全」

と感じるのは生物の生命維持のためには正常な反応です。

言ってしまうと「今までの方法で上手くは行ってないけれど死んでもいないから安全」ということ。

何度も同じことを指摘されるのは、まだそれが自分の中で『非常時にも頼れる安全な方法であるという確信』を持てるだけの成功体験がないから。

だからこそ、とっさの時に古い習慣を選んでしまいがちなのかもしれません。

「上手く行くと知っている」と「実際に上手くいった経験がある」では全然違いますからね。

良いことを知っただけで実際にやらないでいれば、当然成功体験には繋がりません。

とっさの場面で本当に効果のある動作を選択したいのなら、実際に試して成功体験を何度もすることが必要です。

アレクサンダーテクニークのレッスンでは、失敗のリスクを抱えつつも新しい選択をするという勇気の必要な体験をするために、誰がどんなことで悩んでいたかレッスン中のプライバシーに関することは口外しないというルールで進行しています。

一人では躊躇ってしまう冒険でも、背中を押してもらえたら一歩踏み出せることもあるものですよ。

堂々巡りになってしまっているような方は実際のレッスンでご相談くださいね。

 

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  • この記事を書いた人

有吉 尚子

1982年栃木県日光市(旧今市市)生まれ。小学校吹奏楽部にてクラリネットに出会い、高校卒業後19才までアマチュアとして活動する。20才のときに在学していた東京家政大学を中退し音大受験を決意。2003年洗足学園音楽大学入学。在学中から演奏活動を開始。 オーケストラや吹奏楽のほか、CDレコーディング、イベント演奏、テレビドラマBGM、ゲームのサウンドトラック収録など活動の幅を広げ2009年に洗足学園音楽大学大学院を修了。受講料全額助成を受けロシア国立モスクワ音楽院マスタークラスを修了。  及川音楽事務所第21回新人オーディション合格の他、コンクール・オーディション等受賞歴多数。 NHK「歌謡コンサート」、TBSテレビドラマ「オレンジデイズ」、ゲーム「La Corda d'Oro(金色のコルダ)」ほか出演・収録多数。 これまでに出演は1000件以上、レパートリーは500曲以上にのぼる。 レッスンや講座は【熱意あるアマチュア奏者に専門知識を学ぶ場を提供したい!】というコンセプトで行っており、「楽典は読んだことがない」「ソルフェージュって言葉を初めて聞いた」というアマチュア奏者でもゼロから楽しく学べ、確かな耳と演奏力を身につけられると好評を博している。 これまでに延べ1000名以上が受講。発行する楽器練習法メルマガ読者は累計5000名以上。 現在オーケストラやアンサンブルまたソロで演奏活動のほか、レッスンや執筆、コンクール審査などの活動も行っている。 「ザ・クラリネット」(アルソ出版)、吹奏楽・管打楽器に関するニュース・情報サイト「Wind Band  Press」などに記事を寄稿。 著書『音大に行かなかった大人管楽器奏者のための楽器練習大全』(あーと出版)を2023年8月に発売。Amazon「クラシック音楽理論」カテゴリーにて三週間連続ベストセラー第一位を獲得した他、「音楽」カテゴリー、「クラシック音楽」カテゴリーでもベストセラー第一位を獲得。 BODYCHANCEおよびATI(Alexander Technique International/国際アレクサンダーテクニーク協会)認定アレクサンダーテクニーク教師。 日本ソルフェージュ研究協議会会員。音楽教室N music salon 主宰。聴く耳育成®︎協会代表理事。管楽器プレーヤーのためのソルフェージュ教育専門家。クラリネット奏者。

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