演奏家の役に立つメンタルコントロールのヒントとなる書籍のご紹介をいたします。
緊張だけではなく、練習を煤ける上での心構えや、周りとのコミュニケーションについてなど、応用できるそうなものを厳選してまとめてみました。
勝ち続ける意志力
まずは梅原大吾さんの「勝ち続ける意志力」について。
もしかしたらご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが「世界一プロ・ゲーマーの仕事術」という副題の通り、梅原さんはゲームをお仕事にされている方です。
「音楽とゲーム?関係ある?」と思うでしょうか。
この本はわたしも音楽関連ではない人のおすすめで読み始めてみたのですが、「これは演奏を追求していくわたしたちと共通点が多い!」と驚いたのです。
音楽も自分との戦いという側面はありますし、コンクールなどに関わるなら審査員の評価による勝負もあるでしょう。
ゲームの大会など公の場で試合をすることに関わる緊張やプレッシャーとの付き合い方として取り上げられている心の扱い方と、楽器演奏で本番に向かうわたしたちの心の動きと全く同じものでした。
そういうここ一番での勝負に関わる部分はもちろん、自分自身を深く見つめながらトレーニングを行う「練習」という面でも考え方が大変勉強になる!
そんなに厚い本でもなく読みやすいのでぜひ全部読んでみていただきたいと思いますが、印象に残った部分を少しだけ抜粋してご紹介します。
「自分を高めるということは、何かを編み出したり、経験を積んだりすることで、自分の引き出しをいっぱいにすることではない」
これ、理論を色々勉強して知った気になるけれど実践は出来ないというパターンであるある!
たくさんのことを知ったって、自分で実践できなければ意味がないのです。
本当にその通り。
他にも
「答えが正解かどうかは、あまり重要ではない。それよりも自分自身で考え抜き、何かしらの答えや新たな考えを見つけることの方が大事なのだ」
「集中力とは、他人の目をいかに排斥し、自分自身とどれだけ向き合うかにおいて養えるものかもしれない」
「型にはまってしまうのは、失敗を避け、有名になりたいとか、目立ちたいとか、誰かに認めてもらいたいと願う欲望ではないだろうか。そして、結局はその欲望が自分自身を萎縮させてしまうのだ」
「考えることを放棄して、ただ時間と数をこなすのは努力ではない」
「勝ちから得られる収穫があればいいし、負けから学ぶことがあればいい」
などなどドキリとさせられる言葉がたくさんで、居住まいを正したくなるような読後感でした。
自分に喝を入れたいようなときにまた手に取って再読したいなと思います。
すでにレッスンなどでお会いしている方には「これすごいですよ!おすすめです!」と私が読んだ本をお見せして勧めてしまっています。笑
「近頃練習がマンネリになっているかも」
「何だかやる気が湧かない」
「大事な本番前で心が荒れている」
そんな時にぜひ読んでみてくださいね!
勝ち続ける意志力 世界一プロ・ゲーマーの「仕事術」
梅原大吾 著
小学館
悩みたい人と解決したい人
この記事を読んでる方はリーダーとして合奏をまとめたりお仲間の悩み相談を受けることがきっとあるでしょう。
そういうコミュニケーションの中で、いつまでも止まらないグチに付き合わされてどんなアドバイスも拒否されてしまう、そんなことってありませんか?
「女の話は解決ではなく共感を求めているだけ」などの言葉も耳にしますが、いつまでもグチに共感し続けるのは時間も取られるし何より自分の心が疲れてしまいますよね。
わたしの実家の本棚には昔から色々なジャンルの本が並んでいて、昔々に何気なく読んだ中にアランの「幸福論」という本がありました。
アランはフランスの哲学者ですが、著書の中で
『悲観主義は気分によるものであり、楽観主義は意志によるものである。』
『成り行き任せの人間は、気分が滅入りがちになる。』
という言葉がありました。
人間は放っておけば悪い方に向かいがちになってしまうもの。
そうなりたくなければ意図的に選ぶ必要があるということでしょう。
ヘコんだり落ち込んだりは誰にでもあります。
ですがそのままずっと落ち込んでいるのか、意図的に気分を変えるのかは自分次第ということですね。
どうしようもないことをいつまでもグチっていても事態の好転は期待できないので、ある程度で次にどうするかを建設的に考えたいものです。
解決に向かわないグチに困ったら「この人は解決したいのではなく悩んでいたいのだな」と割り切って距離を取るのも、あなたの大切な人生の時間と心を守るために必要なことかもしれませんね。
自分が悩みを相談するようなときも、ある程度共感してもらったらそれに感謝することを忘れないようにしたいものです。
興味のある方はこちらからどうぞ。
「幸福論」
アラン著
岩波文庫
嫌われたっていいじゃない
一時期かなり話題になっていました「嫌われる勇気」という本を、アレクサンダーテクニークを一緒に学だ仲間に薦めてもらって読みました。
アドラー心理学についての本で、すごく面白くてまたいくつも考えさせられるポイントがあったのでご紹介します。
特に興味深かったのは、「他者の期待なんて満たす必要はない」という言葉。
自分が他人のために生きていないのと同じく、他人も自分のためには生きていない。
他人は操作できるものではなくて操作できるのは自分だけ、ということ。
それについての例え話として「馬を水辺に連れていくことはできるが水を飲ませることはできない。」というものを出していました。
なるほどその通りですね。
アドラー心理学では変わりたい人のお手伝いはできるけれど、変わりたいと思わない人を変えることはできないそう。
自分を変えられるのは自分だけ。
これはアレクサンダーテクニークにもある考え方ですが、他人に何かを強制することはできない、という言葉に改めて納得しました。
他人は圧力をかけることはできても、本人が決断するかどうかまでは左右できないのですよね。
また同じことで他人からの評価は他人が決めることであって自分ではどうにもできないもの。
だからいちいち他人からの評価に左右されず自分にできることをするのが本当の自由だとも。
たしかに。
もうひとつ興味深かったのは、過去や未来ではなく今ここを精一杯生きる、ということに関して。
欲しいものがあればいつか時が来たら、ではなく今すぐにできる小さなことをしましょう。
そしてその積み重ねが結果として望みに結び付くものであると。
小さなことって「今は忙しい」とか「サボっても大したことない」と言い訳をしてついおろそかにしがちですけれど、それこそが積み上げたいもののカケラですもんね。
次に印象的だった言葉に「世界を変えたければ周りが協力的かどうかに関わらずあなたが始めるしかない!」というものがありました。
今いるコミュニティの中での『周りの目』を気にして、思い切った一歩を踏み出せない音楽家はたくさんいます。
でも周りが協力的・肯定的な人間ばかりだということは、自分の世界がまだまだ狭いか、またはすでに認知が広がっていて新規参入しても勝てないレッドオーシャン市場になっているということ。
新しい取り組みをしようと思うのであれば、世界が協力的かどうかに構っていては何も始まりませんね。
思い切って周りがやっていない新しいことにチャレンジする人は最初は白眼視されたり心配されたりということは起こるでしょうが、そのチャレンジが軌道に乗ると途端に白眼視していた人が相談を持ちかけてきたりなど反応が変わるものです。
そしてステップアップしたら次の段階のコミュニティと関わるようになってより高いレベルの当たり前を共有するようになるから、ステップアップしないでいる以前の仲間からの批判なんて全く気にならなくなるもの。
もしもやってみたいこと、恥ずかしいけど実は興味がある、なんてことがあれば思い切って踏み出してみてもいいかもしれませんね!
また楽器のレッスンでも「環境を選びなさい」とは良く言われますが、
「上手くなりたければ実際に上手くなった人と付き合いましょう」
というのはまさに現在の自分と同レベルの仲間に縛られ足を引っ張られずに、ステップアップするための一つの方法かもしれません。
コーチングでもよく言われることとも共通点があるものですね。
アドラー心理学、興味深いです。
続編に「幸せになる勇気」も出版されています。
まだ読んだことのない方は興味あればぜひ読んでみてくださいな!
「嫌われる勇気」
岸見一郎、古賀史健 著
ダイアモンド社