「アレクサンダーテクニーク?アレキサンダーテクニック?」「なんだか演奏に役に立つものらしい」「管楽器業界で流行ってるみたい」「それって一体何なの?」
今回はそんなアレクサンダーテクニークに関する疑問にお答えしてみます。
もくじ
アレクサンダーテクニークとは
アレクサンダーテクニークとは、1900年前後の頃に生きたオーストラリアの朗唱家(昔の俳優さんのようなな職業)だったフレデリック・マサイアス・アレクサンダーという人物が発見した理論です。
F.M. アレクサンダー (Frederick Matthias Alexander, 1869-1955)
アレクサンダーテクニークをメソッドとして教えるためには解剖学の知識も必要ですが、理論自体は解剖学とは別物です。
アレクサンダーテクニークの原理を理解して自分で使うだけならば、解剖学の知識が絶対に必要というわけではありません。
ではアレクサンダーテクニークとは何なのかといいますと、自分自身の本当にやりたいことは何なのかはっきりさせて、それが一番効率的に行える方法を探しましょう!というもの。
特定の動作のためのトレーニングや手法というわけではなく、個人個人が自分のしたいと思うことをより良く行うために、心身をより効率的にコントロールすることが目標とされます。
楽器の演奏者がアレクサンダーテクニークのレッスンを受けて音が大きくなったり、響きが増したり、奏法に無理がなくなったり、身体が楽になったりという感想を目にすることがあるかもしれません。
それは個人個人の骨格や体力、経験の中から自分にとって最適な動作を選び行うことで得られる結果です。
特定の姿勢や動きを勧めるものではなく、脊椎動物が共通して持っている身体の構造をより良く使うための動作の選択法というとわかりやすいでしょうか。
アレクサンダーテクニークは怪しい?
アレクサンダーテクニークの原理としてはシンプルではありますが、そのアプローチ方法は教師の数だけ存在するもの。
音楽専門の教師もいれば俳優やダンサーとして活動しつつ、レッスン活動も並行して行うアレクサンダーテクニーク教師もいたりなど、教師もそれぞれバックグラウンドにアレクサンダーテクニーク以外の専門分野を併せ持つことがほとんどです。
だからこそ、解剖学的なフィジカル面からのアプローチが得意な教師がいれば、反対にメンタル面を掘り下げることでアレクサンダーテクニークの使い方を教える教師もいたり、また演奏表現を磨くことを目的にアレクサンダーテクニークをレッスンに取り入れたりなど、さまざまなレッスンスタイルが存在するのもアレクサンダーテクニークの特徴のひとつです。
またその時点での心身や生活状況に合わせたアドバイスが行われるので、場面によっても受講者によっても違うアプローチでレッスンされることも多く、「一言で説明しにくい」という側面もあります。
こういうところから英会話やピアノレッスンや着付けなどのポピュラーな習い事とは違って感じられがちなため、「よくわからない」という印象を持たれることも少なくありません。
さらに怪しいと感じられるもうひとつの理由としてこういうものも。
アレクサンダー・テクニークはプロの奏者も多く受講されているものではありますが、プロ奏者がこういうボディワークに頼るのは故障を抱えた時やスランプに陥りかけて困っている時が多いもの。(もちろんそうでなく単純により向上するための探求という方もいますが)
故障やトラブルを抱えていることを公にすると仕事が減ったりブランディングに傷が付いたりなどキャリアのマイナスになることを心配するケースもあり、「内緒で相談させてほしいのだけど」と声をかけられることも少なくありません。
そういう場合は解決の糸口が見つかり喜んで感想をくださっても、ご紹介するときには匿名にしたり顔写真をぼかしたりなど配慮するもの。
そういった面が「怪しい」「新興宗教?」などと感じられる原因ではないかと思います。
最後にこれも怪しいポイントの一つでしょうが、ちょっとした使い方の変換で出る効果がとても大きいので、大げさに喜んでくださる方の感想が胡散臭くなってしまうというところもあるかもしれませんね(笑)
アレクサンダーテクニークの原理
アレクサンダーテクニークの一番のポイントは頭と首の関節にあります。
脊椎動物の動作の起点になっている「軸」の部分がここ。
全ての動きの快適さと質を変えるポイントが頭蓋骨の一番下と、一番上の首の骨が接する関節を縮めて固めているかそれとも自由に動けるようになっているか、ということ。
この関節は「AO関節」とか「トップジョイント」とか「環椎後頭関節」などと呼ばれます。
ここですね↓
ここの関節に関わる筋肉のいくつかが関節を固めるか緩めるかということを左右しています。
そしてこの関節が固まっていると頭と首以外の身体のあちこちにも影響が出ます。
だから音楽に関わる動きについて言うならば、演奏の質を左右していてよりよく演奏するための一番のポイントになっているのがこのAO関節であると言えるのです。
なぜAO関節だけ特別なのか
このたったひとつの関節がどうして全身に影響するのか不思議ではありませんか?
他にも関節はたくさんあるのに何でわざわざこの関節だけ特別扱いする必要があるんだろう?なんて思われるかもしれません。
この関節がなぜ特別扱いかというと、かかわる筋肉群が動作のコントロールをするだけでなく、とても繊細な感覚受容器官としての役割を兼ねているからです。
つまり身体のセンサーみたいなものですね。
筋肉の中の筋紡錘というのが感覚受容器官としての働きをするそうですが、このAO関節に関わる筋肉群にはそれがとても多いんだとか。
そのおかげで身体のどこかが傾いていたり力がかかっていたりするという情報をキャッチして脳に送るということができる仕組み。
身体の全体の情報をキャッチする筋肉群なので「違和感センサー」と呼んでも良いかもしれません。
それではこの仕組みが上手く機能しないと一体どんなことが起こるのでしょうか?
不具合に早く気付いて対処する
身体のどこかが傾いていたり、無理な力がかかっていたりという情報をキャッチして脳に送る仕組みが上手く機能しないと何が困るのでしょうか。
この違和感センサーの筋肉群が力んで固まると情報キャッチが出来なくなり身体の他の部分からのフィードバックが得られず、不具合に対処するための微調整を行う指令が脳から出なくなってしまいます。
つまり、どこか微細な違和感や不具合があってもそれに気付かず、そのまま効率的でない動作を続けることで肩こりや演奏中の痛み・故障などを引き起こす原因になるのです。
はじめはほんの些細な違和感も長く繰り返し起きることで痛みや不具合に繋がってしまうのでそれが演奏に不要なことなら早い内に解消するにこしたことはありません。
この誰でも持ってる違和感センサー、せっかくならONにしておいた方が何かと有利です。
ではセンサーをONにするにはどうしたらいいのでしょうか。
身体の違和感センサーをオンにする方法
これはすでにお伝えしたように、違和感センサーの役割をする筋肉(後頭下筋群)を無駄に力ませず、緩めて自由に動けるようにしておくというのがポイントです。
そうすると、やりたい動作に対して最適な動きを身体が自動調整しつつ行うことが可能になります。
実際に身体で起きている動きは、わたしたちが頭で考える動きよりも遥かに多様で複雑なもの。
わたしたちは普段「頸回旋筋を働かせて後ろを振り返って見よう」なんて一々考えなくても必要な時には必要な筋肉を使っているでしょう。
それを邪魔してしまうのが「余計な意図」と「思い込み」であることが多いのです。
どういうことでしょうか。
自分を邪魔する余計な意図と思い込み
わたしたちがやりたいと思っている動作を身体が自動調整しつつ行うことを邪魔することをここでは仮に「間違った意図」と呼びます。
間違った意図とは例えばどのようなものがあるのか例を挙げて解説しましょう。
例えば、演奏で息を吐くときに腹筋をカチカチに固めるのは息を吐く動作を邪魔をするものです。
無意識にため息をつくようなときはお腹を固めたりせず深く吸って吐いてるでしょう。
ではここで試しにお腹をカチカチに固めて深いため息をついてみましょう。
なんだかスッキリしませんよね。
間違った意図が動作を邪魔するというのはそういうこと。
「身体のここが働けば呼吸には良いはずだ」と思い込んで身体にとっての間違った動きを意図することで、結果的に引き起こしたいことを邪魔するのです。
私たちは無数にこういう間違った意図や思い込みを持っています。
そしてそれは目標を持って長年様々なトレーニングを積み重ねてきている人により顕著に見られる傾向です。
アレクサンダーテクニークは思い込みから解放される方法
アレクサンダー・テクニークはそういう自分の意図と違った結果を引き起こす心身の使い方を丁寧に見直していくメソッドです。
どのような身体についての勘違いや思い込みを持っているかによって、アプローチが変わるのは当然です。
音楽専門のアレクサンダーテクニークのレッスンは、AO関節に関わる筋肉で構成される「違和感センサー」を活用して、演奏中どこかに不具合や痛みがあったら何がその原因なのかを自分で探って解決するのを助けるものです。
筋トレのような鍛えるためのトレーニングではなく、自分の心と身体に注意を払うトレーニングになることが多く、何歳からでも誰にでも出来るもの。
原理がわかって使えるととても便利なので音楽家には特にオススメです。