アナリーゼ ソルフェージュ 合奏・アンサンブル 練習 音楽史・作曲家・演奏家 音楽理論

譜読みはできてるのに、なぜ音楽にならない?

「アナリーゼなんてめんどくさい!」と、分析を指揮者任せにしていませんか?

ほんのちょっと楽譜の見方を変えると演奏は「指示通り」から「自分の音楽」になっていきますよ。

今回は楽譜を見る時に考えたいあれこれをご紹介します。

単調な演奏を脱するヒント

pって小さいだけ?

楽譜にpと書いてあるとき、ただ小さいだけの音を出してはいませんか?

小さい音を出すのは何のためでしょう。

楽譜に書いてあるからでしょうか。

何のために楽譜にpと書いてあるのでしょう。

作曲家は「小さい音」が欲しかったのでしょうか。

どんなニュアンスのどんな表情の「小さい音」が欲しいのでしょう。

一言で小さい音といっても色々ありますよね。

静かな音

遠くから聞こえる音

興奮を抑えてる音

ささやき

ため息

張り詰めた緊張

きらめき

などなど他にもたくさん。

表現して欲しいのは音量の少なさではないでしょう。

とはいえその音一つだけを見てもどんなイメージなのかわからない時もあるかもしれません。

そんな時は楽譜でどんな前後関係なのか、どんな場面のどんな役割なのかを知ることが手がかりになります。

そんな前後関係や場面を判断するためのアナリーゼ、できると視界のモヤが晴れたように楽譜がキラキラして見えてくるものですよ!

アナリーゼは音楽の「空気を読む」ようなこと。

KYなただの小さな音ではなく、その情景にマッチした音を出せるようになりたいものですね。

 

ボレロは違反だらけ

和音というのはただ単体でハーモニーの美しさだけを持つわけではなく、前後関係でストーリーを作ったり、色合いの変化を感じさせたり、という側面も持っています。

一つ一つの和音の並べ方によって、役割を担ったり意味を持ったりするものです。

そういう和音の並べ方のルールをまとめたものが「和声学」。

入試で楽典をクリアした音大生が、入学してすぐに学び始めるのがこの和声学です。

その後に学ぶあれこれを理解する上で最低限の必須な科目なので低学年で履修します。

医学生にとっての解剖学のようなものかもしれませんね。

和声学は和音それぞれの持つ役割だけでなく

「平行や並達の5・8度は避けるように」

「共通音の無い和声に進むときは上3声はバスに反行するように」

などたくさんの規則があります。(覚えなくて大丈夫ですよ!)

2016-08-26_15.57.01

「めんどくさいだけで演奏には役に立たないでしょ」と思われがちですが、このややこしい色々な規則は演奏をする上でとても役に立つのです。

例えば、ラヴェルのボレロ。

和声学では規則違反だらけです。

その規則違反をわざわざ使った響きが面白いところなのですよね!

ラヴェルの他にも、強調して聞かせたい音形にわざわざオクターブで「平行8度」という規則違反を使っていたり、

響きの変化でアクセントに聞かせたくて「平達」という規則違反にしていたり、楽譜からは色々な作曲家の意図が読み取れます。

でも。

それがわざと規則違反を使った工夫だと知らなかったらどうでしょうか。

何が面白いのかとか、どこを強調すると作品がどうなるのか、そんなことはさっぱりわかりません。

たとえ耳で聞いて「特徴的だな」「何か変だな」と感じたところで作曲者の意図が分からなければ、せっかくの特徴が目立たないように音量調整をして地ならししてしまうことさえあります。

音楽の先生としてレッスンをするなら、そういうことを楽譜から読み取れるだけでなくて、知識のない生徒さんにも作品の面白さや特徴などをわかりやすく紹介してあげるのも大切なことです。

作品の魅力を伝えるという点では演奏もレッスンも同じですね。

作曲をするわけではなくても和声について知っておくのは演奏にも役に立ちますよ!

 

つまらない演奏を面白く

「棒吹きになってしまう」

「歌い方が変だと言われる」

「自由にやってみてと言われてもどうしていいかわからない」

など歌い回し方について悩んでいるのなら、

・どこを大きくしたり小さくしたり

・テンポを巻いたりゆるめたり

そういう抑揚は、曲全体やフレーズの盛り上がりと落ち着きの関係で考えていくのがおすすめです。

 

変な抑揚になってしまうのは落ち着くべきところで盛り上がっていたり、また反対に盛り上がるところで落ち着きに向かっていたり、という作曲家が楽譜に書いたのと違うことをしてしまうから。

また、どこが落ち着きでどこが盛り上がりなのかわからず抑揚の付け方がわからないと、『抑揚として何をしたらいいか』というアイデアが湧かないので、のんべんだらりとした棒吹きになってしまったりするでしょう。

落ち着きや盛り上がりがどうなっているかは、旋律の形や和声の進行や楽器の組み合わせで示されています。

先生の解釈に頼るだけでなく自分でそれらを楽譜から読み取って、どうやりたいかを考えられるようになったら楽しいもの。

アナリーゼと聞くと難しいような気がしてしまいますが、わたしたちは盛り上がりと落ち着きの把握は普段の会話の中などで普通にちゃんとできています。

実は別に難しくなんかありません。

会話の中でニュアンスを掴んでやり取りするのと同じように、音楽でもニュアンスを掴むために注意を払いたいポイントというものがあります。

それを知って雰囲気を把握し、空気の読めた音を出すためのヒントを見つけるのがアナリーゼ。

自分で自分の音楽に向き合えるようになって、演奏を今の100倍楽しめる世界は目の前にあるのに、それを見ないでいるなんてもったいないですよ!

 

骨格で流れを把握する

フレーズの骨格を読み解く分析法

 

旋律をシンプルに単純化して曲の骨格を見ていくアナリーゼの方法があります。

普段わたしたちが目にしてる楽譜は色々と飾られています。

シンプルな旋律線の骨格を滑らかにしたり、激しくしたり、華やかにしたり、などなど。

例えば「ドーミー」という旋律の骨格を滑らかに聴かせたい場合。

ドとミの間のレの音を入れて「ドレミー」と飾ります。

これは途中にある音を経過的に拾うので経過音といいます。

また「ドレドー」という音形は

単純な「ドー」という骨格に動きを出して華やかにしたいために、縫い物の刺繍に似た動きを入れた刺繍音、と読めます。

こういう骨格に対する飾りと言えるような動きのことをここでは装飾と呼びます。

前打音やトリルなどの装飾音とはちょっと違ったお話ですね。

こういう風に旋律を骨格と飾りにわけて読み解く方法に、シェンカー分析という理論があります。

日本ではあまり知られていない分析方法ですが、アメリカや英語圏ではもうそれがアナリーゼの基礎として扱われるくらいスタンダードな方法の一つです。

これは旋律の読み解き方だけでなく、和音の読み解き方にも通ずる大きな流れをみる方法です。

 

和音の進行を骨格で見る

それでは次に和音の読み解き方をご紹介しましょう。

飾りを外して大きな骨格を見て、フレーズの方向性や構造を把握するというのがシェンカー理論の根本的なところ。

そんな大枠を見る旋律の読み方を和音を読むときに応用すると、西洋音楽の構造としては落ち着きの役割であるトニック(一度や六度)と盛り上がりであるドミナント(主に五度など)の二種類と考えます。

 

そしてその間に飾りとしてサブドミナントの色付けなど、オシャレをするような和音を使うという見方をします。

そう思うと落ち着きのトニックとオシャレのサブドミナント、そして盛り上がりのドミナントの3種類で見ていくよりもさらにシンプルになりますね。

そしてサブドミナントだけでなくトニックやドミナントの和音が、使い方によっては飾りとしても機能することも。

あまり踏み込むとややこしいので今回は詳しく取り上げませんが、例えばトニックの和声を『延長』して引き延ばすための素材として飾りの和音が使われたりするのです。

つまり

「このエリアはまとめてトニック」

「ここらかここまではまとめてドミナント」

という見方ですね。

その例えばトニックのエリア内に四度や二度や六度があったりしても、それは経過的に出来た和音や、ちょっと寄り道してすぐトニックに戻る飾りだったり、大枠としては変わっていないという読み方をするのです。

だから作品内にいくつかの構造の階層が出来ているのが見えて、大きな骨格の階層、肉をつけるような階層、表層のお化粧のような階層、というものがわかるようになります。

もちろん演奏するときにも、どの階層のどんな動きなのかを理解できていたら、抑揚のつけ方や流れの運び方などヒントになって、より説得力のある演奏になっていくでしょう。

文字だけで解説するとちょっと難しげな感じがしてしまいますが、とても面白いものですよ!

 

【実践】譜読み作業

音を出さない譜読み

初めての曲を譜読みするとき、どんな風に進めているでしょうか。

譜読みの仕方を知らなければとにかく音符を書いてある順番に吹いてみる、なんていう効率の悪い練習をしてしまうかもしれません。

お仕事や学校が忙しい中でせっかく時間を取って練習するなら、効率的に短時間で譜読みができるようになりたいもの。

音を出さなくても通勤電車の中なんかで譜読みができてしまうなら、きっと助かるのではないでしょうか。

では音を出さなくてもできることを書き出してみましょう。

20160821_024954

まず最初に、楽譜に書いてある文字でわからないものを調べること。

これはスマホの検索などですぐにできるでしょう。

楽典をやったことがなくても何度か検索するうちによく出てくる言葉は自然と覚えていくので、片っ端から楽語を覚えるなんてことはわざわざしなくてもそれで充分です。

次に

・シャープ・フラットはいくつかな?

・何拍子かな?

・どんなテンポかな?

ということをチェック。

それだけでも激しい曲なのかゆったりした曲なのか何となくイメージが湧くでしょう。

そうしたら今度は楽譜全体をぼんやり見渡してみましょう。

・音数が多いのはどの辺りかな?

・逆に少ないのはどこかな?

・テンポや拍子が変わるところはあるかな?

これで特に注意したい複雑そうなポイントと、盛り上がりそうな場所が何となくわかったことでしょう。

そうしたら複雑そうなポイントはどう複雑なのかをチェックします。

ジグザグな動き?

上行系の駈け上がり?

離れた音への跳躍?

臨時記号が多いこと?

何が複雑だと感じる要素なのかで対処方法は変わるので、事前にこれを知っておくと初見が速くなります。

「なにやら難しそう。何をしたらいいかわからないけどとにかく音を出してみよう!」なんて無駄が多すぎますよね。

これくらいのことは通勤電車で5分もあれば出来てしまいます。

音を出す前にチェックするようなことは音が出せない時にやってしまったら、音の出せる時間が効率的に使えるので良いかもしれませんね!

 

アンサンブルを合わせやすくする譜読み

次にアンサンブルが合わせやすくなる譜読み方法をご紹介します。

お昼休憩など隙間時間に出来るのでぜひチャレンジしてみましょう!

%e3%83%80%e3%82%a6%e3%83%b3%e3%83%ad%e3%83%bc%e3%83%89-6

用意するものはやっている曲のスコアとパート譜と鉛筆。

とっても簡単です。

まず、パート譜で自分が最初に出てくる部分を見つけます。

その部分が誰かと一緒に出るのかどうか、スコアで見てみましょう。

もし一緒の人がいるなら、それはどのパートの何番奏者なのかを確認します。

思っていたのと同じ楽器の組み合わせでしたか?

もしかしたら思っていた楽器がいなかったり、一緒じゃないと思っていた楽器が同時に出ていたりしたかもしれませんね。

オケの配置の中にいると、聴こえやすいパートとそうでないパートがあります。

そしてそれは全体がバランス良く聴こえるように調整されたコンサートやCDなどとは違う聴こえ方のはず。

楽器の組み合わせは、作品の中で作曲家がどんな音を求めていたかがわかる大切なヒントです。

例えばクラリネット奏者の目から見るなら、オーボエと一緒の時はエッジの立ったオーボエに響きをプラスする役割だったり、ファゴットと一緒ならキラキラ感を出す役割だったり、ストリングスと一緒なら弦の音を丸く包み込む役割を持っていたりします。

誰と一緒に音を出すのかで役割は変わるのです。

スコアで誰と一緒なのか確認できたら、パート譜の余白に一緒だった楽器を全部メモしておきましょう。

フルートとチェロと一緒なら「+fl.vc」なんてメモで充分。

それができたら、次に合奏の時に一緒の楽器の人を見ながら音を出してみましょう。

指揮者だけを頼りにしてる時よりずっと縦が合うようになり、またアンサンブルとしての音色も作りやすいはずです。

もしまだ昼休みの時間が残っていたら、最初の出だしだけでなく曲全体をそういう風に見て、メモ書きをしてしまいましょう。

トランペットと一緒なのかフルートと一緒なのか、そんなことだけでも作品としてどんな響きにしたい部分なのかを想像でき、アンサンブルもしやすくなりますよ。

ぜひ試してみてくださいね!

 

おわりに:表現力を上げ譜読みを楽しくする

楽譜にはどんな音をどんな風に演奏して欲しいのかが書かれています。

それを読み解くのは、作曲家とのコミュニケーションと言えるのではないでしょうか。

5118_m2jhodvjn2qxnjaxm

ここで楽譜に書かれていることというのは、音符や強弱や発想記号だけではありません。

例えば。

バロックや古典の時代の作曲家は、

「奏者が自由にアドリブで華やかに装飾してくださいね」

そういう意味を込めて、音を詰め込みすぎないシンプルな楽譜を書いています。

逆に近代フランスの作曲家は書いてあることを全部やってくれたら作品が完成するように、細かな指示がたくさんされています。

そういう意図を無視して

・バロックや古典の作品を書いてある音だけを演奏する

・近代フランスの作品で書いてない音を付け足す

そんなことをしてしまうと書いた人の意図とは全然違うことになってしまいます。

こういう時代背景だけでなく、

・濁った音から透き通ったクリアな和音に解決するところではホッとした帰って来た感じで演奏して欲しい

・濁った音が長く続くところでは緊張感を高めて欲しい

など和声でもきちんと作曲家の意思表示がされています。

また旋律の音形でも

・たくさんの跳躍がある場面では躍動感や揺らぎを

・近い音への半音進行が多い場面では雰囲気の繊細な移り変わりや調性感の薄まりを

などなど色々表現して欲しいことが読み取れるでしょう。

「アナリーゼは難しいからわかる必要はない」と考えるのはちょっともったいないかもしれません。

もし「自分は分析はできる!」という方は、噛み砕いてわかりやすく演奏にどう活かすのか伝えてみるのも、仲間と音楽を共有するための大切なスキルのひとつ。

上級者はそういうことにもチャレンジしてみると自分自身のレベルアップにもつながり、仲間とのアンサンブルしやすい関係を作るのにも役立ちますね!

無料メール講座

*ezweb・vodafone・softbank.ne.jp・hotmailからのご登録の場合、文字化けやメールの配信エラーが大変多くなっております。恐れ入りますが、それ以外のアドレスからご登録をお願いいたします。

  • この記事を書いた人

有吉 尚子

1982年栃木県日光市(旧今市市)生まれ。小学校吹奏楽部にてクラリネットに出会い、高校卒業後19才までアマチュアとして活動する。20才のときに在学していた東京家政大学を中退し音大受験を決意。2003年洗足学園音楽大学入学。在学中から演奏活動を開始。 オーケストラや吹奏楽のほか、CDレコーディング、イベント演奏、テレビドラマBGM、ゲームのサウンドトラック収録など活動の幅を広げ2009年に洗足学園音楽大学大学院を修了。受講料全額助成を受けロシア国立モスクワ音楽院マスタークラスを修了。  及川音楽事務所第21回新人オーディション合格の他、コンクール・オーディション等受賞歴多数。 NHK「歌謡コンサート」、TBSテレビドラマ「オレンジデイズ」、ゲーム「La Corda d'Oro(金色のコルダ)」ほか出演・収録多数。 これまでに出演は1000件以上、レパートリーは500曲以上にのぼる。 レッスンや講座は【熱意あるアマチュア奏者に専門知識を学ぶ場を提供したい!】というコンセプトで行っており、「楽典は読んだことがない」「ソルフェージュって言葉を初めて聞いた」というアマチュア奏者でもゼロから楽しく学べ、確かな耳と演奏力を身につけられると好評を博している。 これまでに延べ1000名以上が受講。発行する楽器練習法メルマガ読者は累計5000名以上。 現在オーケストラやアンサンブルまたソロで演奏活動のほか、レッスンや執筆、コンクール審査などの活動も行っている。 「ザ・クラリネット」(アルソ出版)、吹奏楽・管打楽器に関するニュース・情報サイト「Wind Band  Press」などに記事を寄稿。 著書『音大に行かなかった大人管楽器奏者のための楽器練習大全』(あーと出版)を2023年8月に発売。Amazon「クラシック音楽理論」カテゴリーにて三週間連続ベストセラー第一位を獲得した他、「音楽」カテゴリー、「クラシック音楽」カテゴリーでもベストセラー第一位を獲得。 BODYCHANCEおよびATI(Alexander Technique International/国際アレクサンダーテクニーク協会)認定アレクサンダーテクニーク教師。 日本ソルフェージュ研究協議会会員。音楽教室N music salon 主宰。聴く耳育成®︎協会代表理事。管楽器プレーヤーのためのソルフェージュ教育専門家。クラリネット奏者。

-アナリーゼ, ソルフェージュ, 合奏・アンサンブル, 練習, 音楽史・作曲家・演奏家, 音楽理論

Copyright © 2022 聴く耳育成協会 All Rights Reserved.