ハーモニーが苦手なのは、センスや才能の問題ではありません。多くの場合、「聴き方」と「音のとらえ方」を練習してこなかっただけ。
この記事では、ハーモニーを“感覚任せ”にせず、耳と声で精密にしていく方法をご紹介します。
スマホアプリを使った音の確認、鼻歌レベルから始められる練習、一人でもできるシンプルなワークを通して、和音の中で自分の居場所を見失わない感覚を育てていきましょう。
もくじ

悪い音程が当たり前になる練習
高音域は上ずり、低音域はぶら下がる。
そんなだらしのない音程傾向になってしまうのは、音感が無いからだけではありません。
初めて楽器を手にしてから繊細なコントロールスキルを身につけ、自在に演奏できるようになるまでには、当然ながらたくさんの練習が必要です。
その時にソルフェージュを取り入れずに自分の楽器で音を出す練習しかしていなければ、たくさん練習する過程であやふやな音程感覚で出す楽器の特性任せの音程を覚えてしまいます。
例えばクラリネットだったら高音域がやたら高く、低音域はより低くなりがちで、通常は耳を使ってそれを細かく補正しながら演奏するもの。
ところが楽器任せにしたら、その楽器の音程傾向が標準的だと思い込んでしまいます。
そうすると楽器なしで声で歌った時にも、高音は高めに低音は低めに歌うようになってしまう。
それは個性などではなく、だらしのない音程感覚で鳴らされる楽器任せの音を長年聴き続けて培ってきたもの。
長年の積み重ねで、自分の音程感覚が狂ってることに気がつかない耳を作ってしまうのです。
そんな楽器の特性を排除して、純正なハーモニーの中で出したい音を明確に歌う。
それは理想的な練習の一つではないでしょうか。
合唱を取り入れている吹奏楽がとても綺麗にハーモニーを作れるのは、そういうことかもしれませんね。

楽器から離れて自分の音感やテンポ感やリズムを整えることは、これからさらにあやふやな音程感覚のまま練習を積み重ねる前に、一刻も早くやっておいた方が良いものですよ。
ハーモニーを歌う
鼻歌でハーモニー練習
ハーモニーを頭の中でイメージするための練習をご紹介します。
まず何も基準を聴かないでドーと声で出してみましょう。
これを繰り返すうちに音域による響きや音の太さの違いなどがわかってきますから丁寧に。
声で出したらピアノかアプリかで合ってるかズレてるか、ズレたならどれくらいどっちに寄っていたのかをチェックします。
次にもう一度ドーを歌いながら、今度は頭のなかで「ミー」と思い浮かべてみましょう。
声のドと頭の中のミ、組み合わされるとどんな響きに感じられるでしょうか。
明るいか暗いか柔らかいか固いか、想像できたらピアノかアプリで実際にドとミを同時に鳴らしてみましょう。
思っていた響きと似ていましたか?
違っていたとしたらどんな風に違っていましたか?
頭の整理と耳の精度を上げるためぜひ言葉にしてみましょう。
それが出来たらもう一度、2つの音の響きをイメージしながら声でド、心でミを歌ってみます。
出来たら今度はひっくり返してミを声で、ドを心で歌ってみます。
同じように響きをイメージしながら歌ってみてくださいね。
これが出来たらドとファ、ドとソ、ドとラ、ドとシ、最後にオクターブ違いのドとドも歌ってみましょう。
一つの音を出しながら別の音程や吹奏感を思い浮かべる練習は初見力がアップします。
またソルフェージュ力が上がって、音程や音質のコントロールも良くなっていくのでオススメです。
一日では出来るようなものではないので時間をかけてじっくり慣れていってくださいね!
ハーモニーはストーリー
プロで演奏活動していて「旋律聴音は得意!」という方でも、和声になるとさっぱり聴き取れなくなってしまう。
同じ声部を横に聴けば取れるけど、和音度や前の和声との違いは聴き取れていない。
そんなケースもソルフェージュのレッスンではあるあるです。
和音の変化は曲の盛り上がりや落ち着きなどストーリー展開の大切な要素なので、是非とも聴き取れるようになりたいものですね。

ここでは簡単な和音を聴き取ることと、ハーモニーの中で音を合わせる練習方法をご紹介します。
まずはこの5小節間をピアノかハーモニーディレクターかスマホのアプリで弾きながら、どんな印象のフレーズなのかを聴いてみましょう。

こんなところに気をつけましょう。
・一度と四度の響きはどんな風に違うか。
・全体の進行からどんな印象を受けるか。
・特徴的だと思うポイントはどこか
思考が整理されて記憶にも残りやすくなるので、面倒がらずにいちいち言語化してみましょう。
正解はないので自分なりの言葉で硬さ・温度・匂い・味・明るさなどしっくりくる表現を探してみるのが良いですよ。
この時、近くに横から口出ししてしまいそうな誰かがいたら『正解』をさっさと言しまわないように釘をさしておきましょうね。
人それぞれ感じ方は違うので、誰かの『正解』を周りみんなが同じように感じるわけはありませんから。
とはいえ、もし数人でやっているのなら、仲間同士で言葉の表現のアイデアを出し合うのは発想や表現の幅が広がる良いことなのでオススメです。
そんな風に順番に
・四度から一度に戻った時にどんな感じがするか
・一度から五度に行った時はさっきの一度から四度に行った時とどんな風に違って感じられたか
・五度から一度に行くのは、四度から一度に行くのとどう違っているか
ということを丁寧に一つ一つ言語化していきます。
それができたら1つの声部を声で歌いながら、ピアノで和音をつけてみます。
声質や声量はどうでもいいので、さっきの和声の移り変わりが聴こえているかどうかを気にしながら歌ってみましょう。
仲間とやっていたら歌うのは順番に一人ずつの方が和音をよく聴けて良いでしょう。
慣れてきたら歌っている声部はピアノの音を抜いて弾いてみます。

そうすると純正律により近付けて、ハーモニーの合わせ方を練習することができます。
真ん中は一番聴き取るのも合わせるのも難しいので、低い声部と高い声部がそれぞれできてから取り組んでみましょう。
これを色々な和音進行で色々な調で繰り返し行うことで、自分のパートを演奏しながら曲のストーリーの展開がどうなっているのか、周りのハーモニーがどう変わって行くのか、などを聴いて合わせることができるようになっていきます。
合奏の休憩中など、ぜひチャレンジしてみてくださいね!
分離唱トレーニング
ハーモニー合わせのコツ
合唱を取り入れている吹奏楽がとても綺麗にハーモニーを作っている場面、意外によく見かけるものです。
でもだからと言って、上っ面だけ真似してただ単純に声で合わせて曲を通してみれば良いというものではありません。
耳を使わず自分のパートだけを単旋律で追いかけたりしていては、わざわざ声で歌ってみる意味がないですからね。
歌でハーモニーのトレーニングをするときに着目したいポイントはどんなところでしょうか。

まずは全体でどういうハーモニーが鳴っているのか把握することです。
曲の主になる響きなのか、盛り上がりなのか、色合いを足しているのか。
それが把握できたら次に、チューナーではなく自分の耳でハーモニーが純正になって透き通っていくポイントを探して音程を動かしてみましょう。
どんどん色々な和音に移らず、一つの和音だけで合った時と合っていない時の違いを体験するのも良い練習になります。
音程コントロールは楽器でするより声の方がずっと簡単なのですぐに感覚がつかめるはずですが、そのハーモニー作りの手法としてとても取り組みやすくてオススメな「分離唱」という手法があります。
これは佐々木基之さんという音楽の先生が始めたメソッドで、和音の中で一つの音だけを取り出して歌い、ぴったりハマるポイントを耳で探す練習が土台になっています。
具体的にハーモニーがぴったりハマるポイントとしては、長三和音なら3度は13.69セント平均律の真ん中より低く、5度なら1.96セント高くしたところなど色々理論がありますが、演奏中に曲中のハーモニー全てについてそんなことを考えてコントロールするのは実質不可能。
また事前にチューナーで調べて「この運指ならぴったりだ!」というのを決めることも、根音を担当する奏者がその日の体調や気候の変化でほんの少し高めや低めに来たらもう対応できなくなってしまうのでバカバカしい。
頭でっかちに理論だけ知っていても実際の演奏で使えなければ知らないのと同じですし、理論は知らなくても実際に現場で使えればそれでいいのです。
ということで、分離唱では理屈ではなく耳で聴いて自分で気持ちいいと思うポイントを探すことで、お互いの音の傾向やその日の状態なども含めて反応し合いながら純正なハーモニーを作る、ということを大事にしているそうです。
そもそも耳で聴いて気持ち良いと感じることを理論化したものが音楽理論なので、先に理屈だけ生徒さんに教えてしまっても中身が伴わなければ意味がありませんよね。
せっかく合唱を取り入れるなら、ただ曲を通すだけでなく分解して丁寧に、普段通り楽器を使っていてはできないようなところを見ていきたいものですね。
スマホでハーモニートレーニング
スマホのピアノアプリで出来る分離唱のトレーニングをご紹介します。
ここでは音源もつけていますが、お手元で何度でも試せるように何でも良いので鍵盤アプリを一つ入れておくことをお勧めします。

まず最初にドの音を聴いて、それを基準にしてソの音を心で歌ってみましょう。
できたらソの音をピアノか鍵盤アプリなどで確認。
合っていたでしょうか。
では次に、ドとソを同時にアプリで鳴らしてみましょう。
どんな響きですか?
思考が整理されて頭に残りやすくなるのでぜひ言葉にしてみましょう。
ではそのままドとソが鳴っているのを聴きつつ、心の中でミの音を歌ってみます。
できましたか?
ドとソの音が消えてしまったら何度も押して鳴らしてください。
これはまだアプリでは確かめないでおきましょう。
今のミを心で歌い続けていてくださいね。
そのままアプリで鳴らす音をドとラにします。
ミは心の中で歌い続けながらしっくりくる気持ちのいい音程になるよう高くしたり低くしたりしてみましょう。
さて、ドとソの時に比べてどんな違いがありましたか?
・全体の響きはどう違ったか
・ミの音はどんな風に音程を動かしたくなったか
これも具体的に言葉にするのがおすすめです。
ネタバレになるのでまずは自分で言葉にしてからこの先を読みましょう。

ドミソとドミラは、明るいか少し暗いかの雰囲気の違いがあったでしょう。
ドミソとドミラそれぞれの和音で、ミの音の気持ちの良いポイントは違ったはず。
具体的にはドミソの時は少し暗めにして、ドミラの時は少し明るめにしたのではないでしょうか。
これは第3音を何セントどうこうという実験ではないので、細かく理屈を考えなくても大丈夫です。
明るい和音で少し暗めに、陰りのある和音で少し明るめに、という全体の雰囲気とは逆のコントロールをするとぴったり合う音程もある、ということを体験できたのではないでしょうか。
その逆のパターンもあるので、これはほんの一例です。
実際の合奏やアンサンブルの場面でも、理屈に縛られずに自分の耳で気持ち良いポイントを探すというのは大切なことですよ!
ぜひ楽器でもチャレンジしてみてくださいね!
変わっていくハーモニーのトレーニング
ハーモニーを精密に合わせることは、実は音楽理論を知らなくても出来るもの。
先ほどご紹介した分離唱のトレーニングを、合奏の合間などで使えるハーモニートレーニング用の楽譜にしてみました。

まず上の段のミの音を声で歌ってみましょう。
下の段は心に余裕があれば自分で、なければお仲間に頼んでピアノやハーモニーディレクターなど和音の出る楽器で弾いてもらって合わせてみます。
もしかしたら楽団のメンバーで分担して和音を鳴らしてもらうのも楽しいかもしれません。
これを楽器でなく声で歌うのは、
・楽器を使うより声の方が音程の繊細なコントロールができる
・楽器の操作に気を取られて音程に耳が向かなくなるのを防ぐ
という理由があります。
ミの音をまっすぐに伸ばすだけですが、周りの音が変化していくことによって第三音になったり第五音になったりなど居場所が変わります。
それに合わせて気持ちの良いポイントを探していると、自然に音程が微妙に明るくなったり暗くなったりと変化していくのが感じられるはず。
聴こえる和音によって自分の音の明暗を変えるための導入練習なので、周りの和音につられないようにまっすぐ伸ばそうと頑張るのではなく、思いっきりつられて動いてしまいましょう。
ここで大切なのは長三和音だとか第三音だからどうするとか、詳しい人が指図しない状況で取り組むこと。
自分の耳で周りの和音を聴き取り、自分の判断で音程を上げ下げして、気持ち悪い響きになる時とスッキリ調和して気持ちの良い響きになる時があるのを経験するのがここでの目的です。
他人から高い低いと言われ続けて自分の耳が信用できなくなってしまっために、自分で聴き取って判断するのを避けるというパターンはとても多いもの。
まずは自分の耳を使って判断し、自分の声でそれに反応する、ということに慣れてみましょう。
それができたら今度は同じことを楽器を使って行ってみます。

自分の声よりも楽器を使う方が、音程の微細なコントロールをするために技術が必要です。
もしレッスンで行うなら先生は音程の上げ下げ自体ではなく、上げたい時下げたい時にどうやったらその楽器で思った通りのコントロールができるのかを教えてあげると良いですね。
ぜひ試してみてください!
RPGゲームでソルフェージュ
ここで、もっとソルフェージュのトレーニングを深めたい方のために、自習サイトのご紹介です。
わたしの出身大学である洗足学園でソルフェージュや楽典をオンラインで学べるサイトが作られたそうです。

正直、大学の集団授業によるソルフェージュ教育はまだまだ工夫の余地があると思っていましたし、RPGゲームになっているなんて「どうせロクなものじゃないだろう」と最初は見くびっていました。
ですが、実際に試しにやってみるとなかなか面白かったのでご紹介いたします。
(何様目線なのか・・笑)
聴いたものを書き取るという聴音の素材を聴けるのは、身近にピアノなどで課題を弾いてくれる人がいない場合には役に立つでしょう。
それに敵を倒すというストーリーの中で楽典の練習問題を進めるのは、飽きにくくて良い考えかもしれませんね。
わたしたちの受験時代、まだこんなシステムはありませんから聴音のトレーニングにはみんな苦労していました。
中途半端にピアノを触れるお友達などでは、リズムが曖昧だったり声部ごとの音量コントロールができていなかったりで、手伝ってもらったとしても正直あまり聴音の助けになりません。
ソルフェージュのレッスンがない日には高校の音楽の先生に頼んだりしている学生もいました。
幸いわたしは母が音大ピアノ科出身だったので、聴音の目的や試験の内容もわかっており、毎日トレーニングとして聴き取る課題を好きなだけ弾いてもらうことができたのはラッキーだったと思います。
「これ、ピアノを弾ける家族がいない人はどうしてるんだろう?」と思ったものでした。笑

実際大学に入学してから同級生に尋ねてみたら、ピアノを弾いてもらえるのは週一回のソルフェージュのレッスンだけで、あとはトレーニングは一切できていないという人は少なくありませんでした。
便利な時代になったものですよね、ほんと。
このサイトは受験生の入試対策にも対応してるとのこと、本当に初めて楽典やソルフェージュに触れるという方にはちょっと難しいかもしれませんが、練習問題の数をこなしたい方にはおすすめです。
洗足学園のソルフェージュ独学サイト
http://www.senzoku-online.jp/solfege/
楽典ゲーム(スマホアプリもあるようです)
http://www.senzoku-online.jp/unity/GakutenWars3D/howto.html
ただひとつ頭に入れておきたいのは、楽典や聴音などの基礎スキルは敵を倒すゲームだけでなく実際の楽曲の中で活かす方法も同時に必要だということ。
ゲームだけで満足せずに、普段演奏する楽譜を見るのにどう落とし込めるかということも考えながらやってみてくださいね!
ハーモニーを合わせる秘訣
ハーモニーを作るときに「長三和音なら第三音を少しだけ低めに」などはよく言われます。
こういう音程の微妙な操作はなぜ必要なのでしょうか。

もちろん純正律で調和させるためです。
でも。
自分の出した音が調和しているかどうかをどうやって調べればいいのでしょう。
本番中にチューナーで測る、なんてことはできませんよね。
わたしたちは自分の耳で、周りの音と比較して調和しているのか、外れて浮いてしまっているのか感じ取ります。
そのために不可欠なもの、それはアンサンブルをする相手。
無伴奏のソロだとしても、自分が数秒前に出した音との関連で次をどうするか決めていきます。
音楽の本質はコミュニケーション。
相手が少しだけ高めの音程で先に来ていたら、自分だけチューナーでぴったりの正確な音程を出しても不協和な和音になります。
そんなとき、何を基準に合わせたらいいでしょうか。
楽器の特性やそのときの体調など色々な要素がありますが、基本的にはお互いに寄り合うことが大切です。

アンサンブルはどちらが正しい、ということではありません。
耳をよく使って相手の出方をうかがいあって、動かしやすい方が動かしたり譲り合ったりしながら寄り添い合うのです。
どちらか片方が相手の反応を全く気にしていなかったら、コミュニケーションは成立しませんよね。
相手がどう来たのかを聴き取るための耳の繊細さと、それに反応する技術を持っていること。
それが音楽的なコミュニケーション能力です。
その音楽的なコミュニケーション能力を高めるのがソルフェージュ。
チューナーを目で見て合わせても、メーターに夢中になって耳でロクに聴いていなければ何度チャレンジしても合いません。
ハーモニーを作るときには、ぜひチューナーは使わず耳で合わせる練習をしていきましょう。
最初はもちろん注意して聴いてもわからないかもしれません。
でもそこで安易にチューナーに頼ったら台無しです。
根気よく繰り返す内にだんだんと聴き取れる情報が増えて、繊細で正確な音程コントロールができるようになっていくもの。
チューナーは
・自分の音がどういう傾向になりがちなのか
・どのくらいコントロールしたらどこまで変えられるか
そういうことを知るためのツールとして使うようにしましょう。
せっかくの生身の相手とアンサンブルできる機会があるのなら、それを活かしながら耳を育てて行きたいものですね。

